日本のデモシーナー、qさん(nonoil、gorakubuのコーダー)にインタビュー

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昨年、デモシーンのドキュメンタリーを翻訳させていただいた縁で、日本で活動するデモシーナーの方々とTwitter上で出会うことができました。(ありがとうございます) …これは質問をぶつける絶好のチャーンス!!ということで、先日ドイツのデモシーンポータル「4Sceners.de」が選ぶ2012年の”Best Invitation Demo”1位にも選ばれたCandyのコーダー、qさん(nonoil)にメールインタビューさせていただきました。

デモを選んだ理由、デモ作りのメソッド、Candyに込めた思い、自作デモツール、、、そして作業現場も公開していただきました!やったね! デモシーンに詳しくない方でも、明日からの仕事に活かせそうなヒントがたくさん入っています。どうぞお楽しみください!

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まずは簡単に自己紹介をお願いします。

Photo: gorakubu.jp

こんにちは。qです。前はnonoilという一人グループで、今はgorakubuというグループのコーダーをやっています。

デモシーンとの出会いについて教えてください。どうして自分でもデモを作ってみようと思ったのですか?

demoだと思って意識して見たのは、elevatedです。
元々小さなゲームをいくつか作っていたのですが、あまり上手くいっていませんでした。理由は

1つは、単純に人と協力してうまいこと進めるのが非常に上手くなかったこと。
2つは、ゲームそのものにそれほど興味がなかったこと。

2つです。デモでしたらこの二つとも解消する事ができます。つまり、一人でもアイデアが何かあれば作れてしまいますし、一発ネタでも十分に高度であったり、斬新であれば評価されるという事です。

# もちろん最終的な完成度を評価するという面もあると思いますが。

# ゲームでもそのような方向のモノがあるとは思う(GGJみたいなのとか)のですが、本流ではないように見えます。

私は、グラフィックスプログラミングが好きなのですが、それがゲームの中に占める割合はそれほど高くありません。他分野のプログラミングや、ゲームとしての面白さを考える事、リソースの作成(絵、音楽)などもどうにかしないといけないため非常に壁が高いです。一方デモであれば、グラフィックスプログラミングさえできればprocedural graphicsのデモを出す事ができます。サイズの小さなジャンルであれば、音がしょぼくてもそれなりに許容される雰囲気もあります。

# もちろん、音にこだわる人もいるので、全部が全部ではないですが。

ご自身で初めて作ったデモはthe impactになるのでしょうか。この製作期間はどのくらいでしたか?1つのデモ作品を作るのに、だいたいどのくらいの期間がかかるのでしょう?

procedural gfxは比較的労力がかからないジャンルなので、これは数日だったと思います。

ちゃんとしたものを作ろうとすると、ツールづくり、検証作業などが入るので、数か月はかかります。プロジェクト開始直後の絵が出ない/音が出ない状態では、作業するのはコーダーだけなので、スキルによって関わる時間はだいぶ変わります。時間をかけているところはかなりかけていて、”Gaia Machina2年位かかってるらしいです。 

これまでの作品を見ると、毎回違った雰囲気のデモになっているように感じました。デモを作る前には、「この技術を使いたい」とか、「こんな雰囲気でいこう」とか、テーマを決めてから作成するのでしょうか?

後述しますが、一番大きなゴールは、完成させる事なのでテクニカルチャレンジに関しては特に意識していません。できたものは、手持ちのもの、すぐ近くにあるものを選択した結果です。 

自分の中で決めているルールや、制作の時に気をつけていることなどありますか?

一番大きなルール、ゴールは「期限内で完成させる」です。凄いアホみたいな目標ですが、そこそこ難易度が高いと思っています。古い話ですが、アマチュアゲームの9割は完成まで至らないと言われています。アマチュア製作のものは数値こそ違えど大体同じような完成率だと思います。これは、作りたいものの「妄想」と実際の「力量」がアンバランスになってしまうからです。力量は、ピーク性能ではなく、その人が安定して出せるアウトプットの速度の事です。力量自体の変化が1年単位で起こると考えると過去1年のアウトプットを割って考えると一番近いものが得られます。そして力量 x 人数 x 期間 が作れるものの上限です。これを超える事は *不可能* です。

アウトプット速度は期間が長引くと下がるので、単純に期間が延びると良いものでもないようです。期限は先に決め定数にしてしまった後に、力量 x 人数の部分に注力するようにしています。人数は増えてもいいわけではない(人月の神話!)ですし、アウトプットの速度もとてもナイーブです。

# 期限厳守にすると「完成させる」ではなく「完成した事にする」になる部分もあるかと思いますが、元々それが上限だったわけなのでそれでも別にいいと思っています。

仕事とは違い金銭が絡まない(特にデモシーンではそれを美徳としている雰囲気です)事も出力速度の予想を難しくさせる要因です。モチベーションは「やりたいことがやれる」だけなので、強くコミットを求める姿勢はうまく行きません。これは他人に対してだけではなく、自分に対してもです。出来る事ばかりやると腕は落ちる一方なので、腕力強化の取り組みは必要ですが、それを前提にすると無用なリスクを背負うことになります。

# 金銭が絡んでも上手くいかないという話もありますがそれはおいておきます。

またやる気を完全に失ってもなんとか前に進めるための準備も必要です。行う全作業をメモにしているのですが、やる気がなくてもできる作業(あまり頭を使わずマウスの操作だけで完結することや、事務作業)を一定数常に残しておき、やる気がない時にやる事を残しておいています。また行う作業自体も12h程度のブロックにすることで流れ作業のようにできるようにしています。

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と長々と書きましたが、これだけで上位1割に到達すると考えると割とお得です。ゴールは「期限内で完成させる」です。 

全作業をメモしてあるとのことですが、まさか手書きじゃないですよね?スケジュール表なども作ったりしているのでしょうか?

自分のは手書き + txtです。グループ全体のは、tracを使っていました。tracはソフトウェア業界ではよく使われるソフトウェアで、ブラウザ上からプロジェクトの進捗とかを把握するために使います。

これが作業メモ!Photo by qさん

(残念ながら私には理解できない部分ですが、デモを作ってる方のためにお願いします…)どんなプログラムを使ってデモを制作していますか?自作のデモツールを使ったりしていますか?

VC2008VC2012QtDirectXを使って作っています。マルチプラットフォームは目指していないので、Windowsプラットフォーム固有の機能でもガンガン使います。極めて普通の環境だと思います。ほぼ全てのデモは2011年初めから自分で作っているデモツール上で作っています。描画まわりのプログラムは毎回フルスクラッチで作っています。

こちらが自作ツールだそう (Photo by qさん)

qさんのデモが生まれる現場を見せていただけますか?必ず音楽を聞きながら作業するとか、デスク周りのこだわりとか、、何かアピールポイントはありますか?

qさんのデモ制作現場!写真を撮る前にかなり掃除したとのことです。(Photo by qさん)

音楽を聴く事もありますし、ミミセン+イヤーマフをして明りも消してやることもあります。集中できるのは後者ですが、ずっと集中することもできないので、作業内容、体調によって変えています。

作業用の場所と、くつろぐ場所は意図的に分けています。右の方に、ソファとプロジェクタを置いて寝そべりながら何かを見るというスペースがあり、娯楽周りのものはそちらに寄せ、作業用に必要な資料とかはデスクトップの周りに集めています。 

SystemKRTX1911Brainstormgorakubu301、、いろんなグループとコラボレーションしていますが、どのように始まり、どのように進めているのですか?ケンカになったりしませんか?

“the impact”以外は全てどこかのグループとやらせてもらいました。nonoilは一人グループですし、私はプログラミングしかできないので、どうしても誰かとやる必要があります。デモ毎にまとめると大体こんな感じです。

confetti:
  q^nonoil「なに作るか決めていないけど、ツールだけ作った」
  q^nonoil「あと一週間しかない!曲がない!Brainstormさんオナシャス」
  parsec^brs「曲できたよ」

 hello world:
  TS^RTX1911「デモ作りたい」
  q^nonoil「このツールを使って作ってください」
  TS^RTX1911「なにこれ使いづらい」

 SCOTTIE:
  kioku^systemK「時間ないどうしよう」
  q^nonoil「時間ないどうしよう」
  kioku^systemK「協業しましょう。自分のツールでシーン作るよ」
  q^nonoil「自分のツールで描画まわり作るよ」

new world old skool:
  TS^RTX1911「デモできたよ」
  q^nonoil(まだこのバージョンのツール使ってたの….)  

candy:
  q^nonoil「ファンクション行くので協力オナシャス」
  301「ボーカル入れられるようにしたよ」
  machia「曲出来たよ」
  kabaki「絵出来たよ」

ただそろそろ腰を落ち着けてやろうということで、gorakubuというグループを作りました。次からはここの中から何か出します。 

去年は「CANDY」で、ハンガリーのデモパーティーFunctionのイントロ部門1位を受賞されています。デモシーン最大のポータルサイトPouetでは日本の「カワイイ」が表現されたデモとも評されていますが、あの作品を作った時の意気込みなどを教えてください。

“candy – Tokyo Demo Fest 2013 invitation -” (Photo: gorakubu.jp)

最初からゴールは「Function1st」でした。Functionに決めたのは、「TDF2013開催から3ヵ月以上前にあり」、「一定以上の知名度があり」、「私が行ったことがない」ためです。“3ヵ月以上前というのは日本に来る事になったとして飛行機のチケットが早割できる、予定を立てやすいという理由からです。64kは作品数の少ないジャンルですが、それでも安定して1stを取るからには確実に目標を遂行できる必要がありました。そのため、今の時点でできる事を、できるだけ上手にやろうと決めました。

今回は、kabakiさんはイラストを、301さんには声の出るソフトシンセを、machiaさんは作曲を、私は残った部分のプログラミングを行いましたが、それぞれの経験は元々各人にありました。しかしそれだけでは、向上しないので、少しだけ手を広げるという事もやっています。kabakiさんは64k用の色々制限のあるところでイラストを描き、301さんは日本語発声に特化したintro用のソフトシンセを作り、machiaさんはその誰も使った事がないシンセで作曲をし、私は64kにどれだけ収まるか不明なSVGデータをなんとかしました。元々出来る事からスタートしているのでゴールが比較的想像しやすかったと思います。テーマは、単純にモチベーションが続きやすいようなものを選択した結果です。 

demoscene.jpで、デモパーティー参加日記を公開されていますが、海外のデモパーティーはどんな感じですか?初めて行った時はどんな感想を持ちましたか?参加してから何かが変わりましたか?

普段PC相手にしてるにしては、やたらフレンドリーな人たちが多いなぁというのが初印象でした。私は普段PCを相手にしている平均的な日本人なので、ちょっと頑張る必要があります。参加してから特に何か変わったとかはないと思いますが、デモを作り続けるとても強いモチベーションになっていると思います。

日本のデモシーンはどんな状況でしょう。他のデモシーナーとの交流の場はありますか?

人数で数えると、アクティブにデモを作っている人は10名程度、なんらかの形でデモシーンイベントに関わった人が100名程度だと思います。少ない数字に見えますが、デモシーンがそこそこ活発なフランスでも作っているのは20名程度という話を聞いた記憶があるので、もう一息で中堅の国ぐらいにはなるのかなぁと思います。

交流の場については、私が日本のデモシーンと関わりだしたのが、2010年の末からなので、それからの話になります。ネット上では、2011年前半まではIRCも少しありましたが、今現在はほとんどSkypeのデモシーングループとTwitterに移動しています。最近はSNSが多すぎて薄味になってしまっていて、2chの掲示板とdemoscene.jpの掲示板は、あまり活発になっていないようです。幸運な事に、ほとんどの人が関東圏在住なので何かのタイミングで集まる機会は多いです。 

いくつかお気に入りの日本のデモを紹介していただけますか。

Tokyo DemoFest 2012 Invitation by SystemK & EldoradoThe Sky Is Wide Enough by Reputelessでしょうか。 

では定番の質問ですが、、、 好きなデモ、または心に残るデモ、影響を受けたデモ、、または人生を変えたデモ… qさんにとって特別なデモを教えてください。

テーマや、テクニカルな事よりも、とにかくインパクトがある絵に惹かれます。”You Should” by Haujobbがたぶんこれまで一番見たデモです。

デモを作る楽しみとは何ですか?qさんにとってデモとはなんですか?

私の場合は、人に見てもらう場所で、動機も人に見てもらうことです。少々粗削りでも、許容される文化なのもそれを後押ししています。ゲームと比較しても要素数が少なく、アイデアが形になりレスポンスをもらえるまでの距離が極めて短いので、それに気がついてもらえればさらに活気が良くなるのではないかなぁと思います。 

やはりデモを公開する時が一番楽しみですか?緊張しますか?

緊張しますね。リリースするときは必ずそのパーティに行って、一番前の地べたに座って見るようにして、どういう反応をしているのかをつぶさに見ています。pouet上では辛辣な意見が多いですが、リアルだとそうでもないです。このあたりは万国共通?なんですかね。

今後はどんな作品を作っていきたいと思いますか?やってみたいことや何か目標はありますか?

これまでは、あまり人がいないところ(64kとかベクターイメージとか)のジャンルばかりを狙っていたので、ちゃんと正面突破したものを作って「普通にやってもこれくらいなら出来る」という事を示したいです。

最後にデモシーナー、デモファンの方にメッセージをお願いします。

90年代のメガデモ時代の名残だと思うのですが、「デモはなんだか難しい事をやっている」というところに注意が行きがちですが、技術的高度さは今はあまり重要でなくなっています。それよりも「わかりやすい」事「楽しい」事の方にウェイトが寄っています。これは新しく始める人にとってはチャンスです。もし少しでも興味を持たれた方は、ぜひデモを作りましょう!!もう作っている人は、pouetall-time topgorakubuよりも先に取ってください!!

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突然かつ相当ずうずうしいお願いであるにも関わらず、快く回答に応じてくださったqさん、どうもありがとうございました!

北欧・ヨーロッパが中心のデモシーンですが、ご覧のとおり日本にもデモシーンは存在します。

日本のデモシーンポータル、demoscene.jpでは、日本のデモ作品、デモパーティー参戦記、チュートリアルなど、デモを作る方にとって参考となる資料が数多く公開されています。(先日はアドベントカレンダー方式で、チュートリアルが公開されていましたよ。みんなすごいね。)


そもそもデモってなに?パソコンの話?と思った方は、まずはこちらのMoleman2のドキュメンタリーをチェック。(この映画の監督、シラードさんのインタビューはこちらでどうぞ。) 

#1: 日本のデモシーナー、qさん(nonoilgorakubuのコーダー)にインタビューは、こちら 
#2: 
デモシーナー、Gargajさん(ConspiracyÜmlaüt Design)にインタビューは、こちら 
#3: 
デモシーナー、Preacherさん(BrainstormTraction)にインタビューは、こちら 
#4: 
デモシーナー、Zavieさん(Ctrl-Alt-Test)にインタビューは、こちら  
#5: デモシーナー、Smashさん(Fairlight)にインタビューは、こちら 
#6: 
デモシーナー、Gloomさん(ExcessDead Roman)にインタビューは、こちら 
#7: 
日本のデモシーナー、kiokuさん(System K)にインタビューは、こちら 
#8: 
デモシーナー、kbさん(Farbrausch)にインタビューは、こちら 
#9: 
デモシーナー、iqさん(RGBA)にインタビューは、こちら

#10: デモシーナー、Navisさん(Andromeda Software Development)にインタビューは、こちら
#11: デモシーナー、Pixturさん(Still, LKCC)にインタビューは、こちら
#12: デモシーナー、Crypticさん(Approximate)にインタビューは、こちら
#13: 日本のデモシーナー、0x4015(よっしんさん)にインタビューは、こちら
#14: デモシーナー、FlopineCookie Collective)にインタビューは、こちら
#15:デモシーナー、nobyさん(Epoch、Prismbeings)にインタビューはこちら

私がデモシーンに興味を持った理由、インタビューを始めた理由は、こちらの記事にまとめてあります。また、デモやデモシーンに関連する投稿はこちらからどうぞ

 

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