デモシーナー、nobyさん(Epoch、Prismbeings)にインタビュー

 
 
「デモシーナーにインタビュー」へようこそ。今回は、EpochやPrismbeingsをはじめ、数多くのグループ・プロジェクトに関わりながら活動しているnobyさんをゲストにお迎えしました。
 
nobyさんは、オールラウンダーであり、デモシーナーとしては比較的新しい世代(リアルタイムでAmigaやC64に触れていない世代)に属します。ミュージシャン、コーダー、デザイナー、ディレクターなどなど、さまざまな肩書をお持ちですが、インタビューを終えた今は、そのリストに思想家とコレクターも加えたほうがいいかも、と感じています(笑)。
 
チャットで行った今回のインタビューでは、nobyさんがソロ活動を始まるまでの経緯、ソロ活動とコラボレーションのメリットとデメリット、そしてデモシーンにおける「ディレクション」の定義を見直すべき理由などについて語っていただきました。
 
また、インスピレーション、感情、現在のAIのトレンドなどについても触れております。かなり長めとなっておりますので、楽な姿勢で、お好きな飲み物などご用意のうえお楽しみください!
 
 
注:デモシーンって何?と思った方は、まずはこちらのページからどうぞ。そしてデモのドキュメンタリーをチェック。
 
——————————————————————–
 
 
まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?名前、グループ、そこでの役割を教えてください。
 
 
写真提供:noby

 

デモシーンでは大体「noby」のハンドルネームを使っています。いろんなグループに参加してきましたが、大きく関わってきたのはEpochPrismbeingsの2つですかね。Prismbeingsはソロ活動の時に使うグループ名で、主にサイズ制限のある作品を作っています。それから、Macau ExportsやEmpathyといったグループでも活動しています。他にも関わっているグループがありますが、それは秘密のままにしておきます!それと、Ekspertのメンバーではないかという噂がありますが、この機会をお借りして、このグループの作品に関わったことは一切ないとお伝えしておきます。
 
役割という観点で考えたことはないですが、もしそういう役割で自分を表現するなら、おそらく「コーダー」か「ミュージシャン」になるでしょうね。でも、そんなに好きな作業ではないので、自分のことをコーダーだとは思っていません。プログラミング自体を楽しいと思ったことはほとんどないんです。どちらかといえば、視覚的なものを作る時に使えるツールというか、「目的を達成するための手段」のように考えていますね。
 
近頃は、というか、そもそもかもしれませんが、デモ制作には複数の分野における高度な知識が必要になるので、「役割」というカテゴライズはあまり意味を持たないと思うんですよね。私の場合は、デモを完成させるために必要なことをただやるといった感じです。
 
 
Prismbeingsはソロ活動なので、すべて自分でやる必要がありますよね。このプロジェクトはどんな風に始まったのですか?
 
最初から1人でやろうと思っていたわけではないんです。制作プロセスを最初から最後まで1人でこなすのは無理だとずっと思っていましたから。だから、少しずつ進歩していって、最終的に1人ですべてを判断しながら作れるようになっていきました。 
 

Zetsubo by Prismbeings (2018) 4K intro
 
 
コラボレーションとソロ活動と両方経験されていますが、それぞれのメリットとデメリットを教えていただけますか?
 
他の人とコラボレーションする時には、少し仕切りたくなってしまうこともあります。それと、プロジェクトにしっかり貢献したいと思うと、クリエイティブな面を決める際にも関わりたいと思ってしまうんです。コラボレーションの相手と、その人がどのくらい自分でコントロールしたいかにもよりますが、場合によってはこれが理由で関係が悪くなってしまったり、パッとしない作品に仕上がってしまったりします。その点、1人で作業すると、すべて自分で決められるので、こういった問題は起きません。 
 
でも、EpochのデモをSimoやDysposinなどのメンバーと作る時に、そういう問題が起きたことはないですね。だから、チームとの相性にもよると思います。特にSimoとはクリエイティブの面でも技術的な面でもお互いを補い合える関係だと思っていて、一緒に作業していて楽しいです。
 
 
Epochグループ写真(写真提供:noby)

 

なるほど。複数の人がハンドルを握ろうとすると問題が発生するわけですね…。でも、ソロ活動も、それはそれで大変そうな気がしますが。
 
自分1人ですべての役割をこなして完成させる責任はありますが、私にとっては、その責任よりも1人ですべてをコントロールできるという自由な感覚のほうが、はるかに魅力的に感じます。コラボレーションするのも楽しいですが、1人の時とはまた違った思考のモードが必要になるんです。
 
 
自分のアイデアを実現させるには、少し仕切り屋になるくらいでないと難しいのかもしれませんね…。
 
当然、こうしたことはすべて「ディレクション」のコンセプトにつながっています。つまり、プロジェクト管理の責任と、出来上がった作品の雰囲気のことです。プロジェクトを誰が管理し、クリエイティブ面の最終判断を誰がするのかを、はっきり理解しておく必要があります。もちろん、複数の人が担当する場合もありますが、こうした細かい点は、プロジェクトに関わる全員で理解しておく必要があります。 
 
 
ディレクションと言えば、nobyさんが書いた記事を読みました。デモシーンにおける「ディレクション」の定義について深く掘り下げていましたが、ディレクションの重要性に気が付いたのはいつですか?何か具体的なきっかけがあったのでしょうか?
 
特にこれといった出来事があったわけではありません。私が知る限り(またはそれ以前から、かな)、デモシーンにはずっと監督のような役割の概念は何となくあったんです。だから、私も最初からデモシーンの中で共通理解されているこの概念については把握してきました。とはいえ、デモシーンが「ディレクション」をうまく扱っているかといえば、そういうわけではない。それが、ディレクションについてセミナーで話し、関連する記事を書くことにつながりました。
 
コンセプトとして役に立つという意味では、ディレクションはデモシーンが考えているよりも、もっとずっと具体的なプロセスなんです。デモシーンではディレクションを派手なカメラの動きや隙のない編集と捉える傾向がありますが、それは本質的な「ディレクション」ではないと私は考えています。しっかりとディレクションされたデモとは、まとまりがあり、意図があり、その意図がうまく伝えられているものです。巧みなカメラワークや編集といった脇役的なもの、そしてあまり目立たない部分などは、うまいディレクションの結果生まれたもので、それ自体がディレクションではありません。大切なのは、表面的にうまく見せようとするよりも、1つのレイヤーにより深く集中することだと思いますね。
 
 
こうしたディレクションをする際に、どんなところからインスピレーションを得ていますか?たくさん映画を見るとか?
 
ディレクションのプロセスに関していえば、特にインスピレーションをどこかから得ているわけではありません。視覚的なメディアを管理・監督することは、どちらかといえば言語を理解し、話すことに近いと思っているので、具体的にどこからインスピレーションを得ているという答え方はできません。少し詳しく説明すると、言葉を話すために意識的にどこかからインスピレーションを得ている人はいなくて、私たちはただ観察から得たパターンや慣習を、望む結果になるように組み合わせたり適応させたりしながら、応用しているだけなんです。言語と違う点は、ディレクションの場合、自分の言語を構築する自由があるところです。この自分で作った言語を使って、予想される観客に意図を伝えていきます。
 
もちろん、ある慣習やテクニックだったり、場合によっては情報源を参照して自分の作品に取り入れることもありますが、大体はただ自分の直観と感覚を使って作業しています。ディレクションの方法を学ぶには、何よりもまず既存の作品を観察し、そこで選択されているものが自分をどんな気持ちにさせるのか考えてみることです。私のディレクションのスタイルは、これまでの人生で目にしてきた既存メディアとの関係が反映された結果だと思います。
 
 
なるほど。では、別の方法からアプローチさせてください。nobyさんの周りの環境を知りたいので、何枚か写真を撮ってもらえますか?
 
それと、ディレクションについて理解するのに役立つ、お勧めの方法などあれば教えてください。
 
もし具体的に何かお勧めするなら、ちょっと月並みですが、「クレショフ効果」について知ること、それとエイゼンシュテインのモンタージュ理論の概念を理解することが、より明確な編集をする際の基盤となると思います。デモ制作に応用できる部分は限定的かもしれませんが、私の場合は、さまざまな用途で役立ちました。
 
 
nobyさんのインスピレーション源を知るためのヒント1
(写真提供:noby)

 

ありがとうございます。では、そもそもの始まりについて聞かせてください。デモシーンとはいつ、どんなきっかけで出会いましたか?
 
デモシーンのことは少しずつ知るようになった感じです。フィンランドのオンラインコミュニティで、音楽を作るならトラッカーがいいと誰かが勧めていて(私にではなく一般論として)、それで2004年にトラッカーミュージックを作り始めました。その時、私は11歳だったのですが、すぐに夢中になり、他の人が作ったものを聴いたり、自分でモジュールを作ったりするようになりました。
 
 
11歳でトラッカーミュージックを作り始めたということは、すでに当時、音楽にすごく興味があったのですか?
 
音楽にはずっと興味がありましたが、当時はまだ自分の好みが確立していませんでした。こういうものに関する具体的なモチベーションについて語るのは難しいですね。当時、特に推奨されていたのはMadTracker IIで、このプログラムは標準的な「オールドスクール」のトラッカーというだけでなく、現代的な機能も入っていました。たとえば、定番のトラッカーよりも高機能なサンプルプレイバックエンジンや、内蔵のDSPエフェクト、VSTプラグインサポートとかですね。もちろん、当時11歳の私には、すぐには何もわかりませんでしたけど、無料で使えるということが一番重要だったんだと思います。無料か、または高品質のエクスポートはできない無料バージョンがあるということですね。無料で必要な機能がすべて使える(といっても、かなり制限されますが)ものは、当時はほとんどなかったと思います。
 
当時は、MadTracker II以外のツールも使っていました。いろんなプログラムをコンピュータにダウンロードして試していたのを覚えています。3Dモデリングのツールとか、画像エディタとか、いろいろ試してみましたが、圧倒的に熱中したのが音楽でした。
 
 
nobyさんのインスピレーション源を知るためのヒント2(好きな音楽アルバム)
「ご存じないかもしれませんが、私はレコードを集めていて、1980年代あたりの日本のポップスやニューエイジっぽいシンセ音楽のレコードもかなり持っています」


(写真提供:noby)

 
おもちゃ感覚でツールをいじっていた感じですか?
 
間違いなく、「よし、今日から音楽を作ろう!」と一大決心したり、自分のPCで使える最高のツールを比較検討したりという感じで始めたものではないです。思い付きで試したものが、今まで続いているというだけですかね。
 
 
なるほど。では、トラッカーミュージックからスタートして、どんな風にデモへと移行していったのでしょう?
 
トラッカーを通して、少しずつ昔のDOSデモを知るようになりました。『Crystal Dream II』(ビデオ)と、当然ながら『Second Reality』(ビデオ)は当時気に入って見ていたのを覚えています。でも、本当の意味で転換点になったのは、ASDの『Lifeforce』(ビデオ)を見た時です。Assembly 2007の後ごろだったと思います。当時、仲の良い友達のBranchが、このデモやそれ以外のいろんな作品を教えてくれたんです。Lifeforceを見る前はトラッカーミュージックと、そういう音楽が使われている昔のデモにしか興味がありませんでしたが、この作品を見てから徐々に現代のPCデモにも興味を持つようになり、翌年のAssemblyに行こうと決心しました。
 
従来のデモシーンの役割で言うと、当時はまだ音楽だけを作っていましたが、サンプルベースのモジュールを作るだけでなく、VSTシンセサイザーやエフェクトにも手を出すようになりました。それから、Branchと一緒にいろんなデモプロジェクトも手掛けていました。彼女はオールドスクールのあらゆる種類のプラットフォームに詳しかったので、そういうデモのための音楽を作りたいと思っていたんです。その過程で、複数のプラットフォーム向けにチップチューンを作る経験もしました。 
 
 
すごく楽しそうな雰囲気が伝わってきます。Branchさんと作った作品は残っていますか?
 
残念ながら、この当時のプロジェクトは実現には至らず、実際に完成させてリリースできたのは、それから数年後でした。それから、同時期に2人とも他の人たちとのコラボレーションも初めていたんですよね。当時は一緒に作品を完成させられないことにイライラしたりしましたが、Branchとの作業を通して学んだ時期は、今でも大切な思い出になっています。
 
1人で制作を始めなかったのには理由があります。10代の時に何度かプログラミングを学ぼうと思ったのですが、基本的なことは理解しても、最初のハードルすら越えられなかったんです。
 
プログラミングを学ぶことは、とてつもない大仕事だと感じていたので、正直それほどやる気もありませんでしたし、本当にどこから手を付けていいのかわかりませんでした。状況が変わったのは2011年に大学に入り、コンピューターサイエンス(または「ソフトウェアエンジニアリング」かな、そういった類のものです)を専攻するようになってからです。それ以前にきちんとしたプログラミング経験はありませんでしたが、学校の厳しさと支援のおかげで順調なスタートを切ることができました。その2年後、2013年あたりからは、少しずつグラフィックスプログラミングも学び始めました。
 
要領がわかりはじめると、すぐに自分の作品を作りたいという気持ちになりました。やっと自分でデモが作れる、と思いました。 
 
 
ところでちょっとお尋ねしたいのですが、nobyさんはAmigaやファミコンの世代ですか?
 
違いますよ!Amigaの存在はデモシーンを通して知りましたし、ファミコンは私の子ども時代にはほとんどありませんでした。(みんなが持っていたのはPlayStationがほとんどで、次にXboxやPCに移っていった感じです。) 
 
 
やっぱり!デモシーンのインタビューというとレトロなコンピュータの名前が出てきそうなものなのに、全然出てこないなぁと思っていたんです(笑)新世代!
 
脱線してすみません。話を元に戻すと、nobyさんは11歳からずっと創作活動を続けていることになると思うんですが、ここまで続けてこられた理由は何ですか?何がそんなにも楽しかったのでしょう?
 
難しい質問ですね。たぶん、何かを作り続けたいという性分みたいなものだと思います。デモシーンという観点から見ると、そこには間違いなく仲間の承認を得たいという気持ちがある。たぶん、「承認」っていうのは適切な表現ではないと思いますが、シーンに関わる全員が集合的に作品を高め合い、お互いを感心させたいという気持ちがあると思います。
 
それ以外に、ものを作る時に何か明確で特別な理由はありません。自分の行動が現実の世界の他の人たちに影響を与えていく様子を見るのが楽しいんです。その影響はポジティブなものが多いし、そうであってほしいと願っています。私たちが作るカルチャーの産物や創作的な作品も含め、アートというのは人間であることの証を示す最も重要で特徴的な側面だと私は考えています。そこに参加しない、貢献しないという選択は考えられません。
 
 
美しいとらえ方ですね。
 
でも、ここ2、3年は積極的に作品を発表していないんです。プロジェクトを完成させたり、リリースしたりという作業をお休みしていました。常にたくさんことをやろうとしてきて、少し燃え尽きてしまったんですよね。それと同時に、自分の人生が次の章に進み、ものづくりに対する自分の取り組み方のプライオリティを見直すタイミングが訪れました。当然とも言えますが、これはパンデミックの前後の時期と重なります。いろんな出来事が重なったことで、優先事項を変えようと思ったんです。特に、今までは時間がないと感じていてできなかった長期的なプロジェクトに集中したいと思いましたし、新しいスキルを身に付けるとか、今まで重視してこなかったことも楽しみたいと思いました。でも、この時期もそろそろ終わりが見えてきているので、また何かをリリースしたい気分になりつつあります(笑)
 
 
それは良かった!創作から離れていた時間が、また新たな視点をもたらしてくれそうですね。楽しみです!
 
さて、1人でデモを作る時は、どのようにプロジェクトを進めていますか?最初に音楽を決めるとか、タイトル、エフェクトを選ぶとか、何か決まった手順はありますか?
 
正直なところ、私の作品のスタート地点は、大体が参加しようと思っているデモパーティーに何か持っていきたいというところから始まっています。それ以外の理由で何か具体的なところからプロセスを始めることはほとんどないです。作品を作るには何かしらのインスピレーションが必要ですが、それは、以前に書いたコードだったり、かっこいいエフェクトだったり、音楽の一部、自分で作って出来栄えに納得している曲、誰かが作ったイメージ、それらを組み合わせたものなど、何でもいいんです。
 
 
ストーリーボードを事前に作ったりはしますか?
 
ストーリーボードは今までに一度も使ったことがないですね。作っている時間がないし、私はできるだけ早い段階で最終形のプロトタイプを作って、そこで作業したいタイプなんです。ストーリーボードは、厳しいスケジュールや多額の資金がからむ、大人数が密接に関わりながら進める制作の際に必要なものだと感じています。デモ制作に関わるチームは小規模なので、そういった複雑性に対処する必要はありませんし、1人でやるならなおさらいらないと思っています。それと、ストーリーボードに関していえば、早い段階から熱心にやりすぎて、あとで自分が想像していたものができないと気付いた時にがっかりするという問題もあります。そういう事態になることも、そしてストーリーボード自体も決して悪いことではありませんが、私には向いていないと思います。
 
私の作品でも他の人の作品でも、とても力のある作品は、大概インスピレーション源として音楽から制作を始めているか、できるだけ早い段階で音楽にコンテンツを合わせていく方法を取っていると思います。デモシーンのビジュアルは他のメディアで目にするものと違っていることが多いので(少しずつその差は埋まってきているように見えますが)、視覚的な面だけで意図を伝えるのは難しい場合もあります。デモに人間のキャラクターや、感情を表現するものは、ほとんど登場しませんからね。
 
でも音楽に関しては、私たちのほとんどが日々さまざまな文脈で音楽に触れていて、それに対してどう感情的に反応すればいいのか知っているので、音楽は最も強力な感情の基盤になると思います。観客だけではなく、制作者本人にも同じことが言えます。制作者がサウンドトラックが伝えていることを理解できれば、観客にもそれが伝わる可能性が高くなりますし、作品のその他の内容をできるだけ早い段階で音楽に結び付けることで、このつながりを確かなものにすることができます。
 
ただ、私の言う「感情」とは、よく「ストーリーデモ」と形容されるものだけではなく、もっと広い意味においてです。突き詰めれば、デモを作る時に制作者が目指しているのは、観客から何らかの反応を引き出すことであり、私の言う感情とは、そういったものを指しています。
 
 

Waillee by Prismbeings (2017) 4K intro
 
 
確かに、言われてみると、見た時の気持ちで覚えているデモがいくつかありますね…(遠い目)。おっと、ちょっと完全に振り返りモードに入りそうなので、次の質問に移ります(笑)
デモや音楽を作る時、いつも決まってしていることはありますか?例えば、この場所やこの時間、この洋服でないとダメだとか、音楽を聴くとか、ビールを飲むとか、何かありますか?
 
いえ、特に決まったものはないと思います。毎回違った状況で作っているので、出来上がった作品の雰囲気も毎回違っていて、そのほうがいいかなと思っています。おそらく唯一共通しているのは、直前に追い込みをかけて、作品を締切ギリギリで仕上げたという点でしょうね。少なくとも数年前まではそうでした。今はもう年を取ってきたので、同じようなやり方はできないと思います!
 
 
確かに、締切にはすごいパワーがありますよね…。では、「マイルール」みたいなものはありますか? どんなプロジェクトでも、これだけは必ずやる、やらないといったルールや目標はありますか?
 
作品が十分なレベルに達していなければとは思います。でも、それも具体的な言葉で定義するのは難しいです。これも直感や感覚でやっていることで、自分が十分と感じられるかどうかは、無数の要素の合計で決まるのだと思います。たぶんあまり気にするべきではないのでしょうが、観客をがっかりさせるのが嫌なんですよね。自分が意図しているのとは違う感情を観客から引き出したくないんだと思います。とはいっても、全員を喜ばせたいと思っているわけではありません。私の作る作品を気に入らない人がいるのもわかっています。作品を受け入れようとしない人の場合は、イライラしてもらって一向に構わないと思っています。
 
 
 

Extra by Epoch (2017) PC demo
 
 
文句を言うのが仕事みたいな人、確かにいますよねぇ…。
さて、制作にはどんなプログラムを使っていますか?自作ツールはありますか?
 
Epochのデモを作る時はGNU Rocketを使っていましたが、ツールといえばそのくらいです。それ以外は自分で作ることが多いのですが、できるだけ早く完成させるための最低限の機能とコントロールしかないツールです。他の人が作ったツールは、その人のUXの考え方、パターン、特異性に慣れる必要があるので苦手なんです。キーバインドやメニュー階層、組織原理よりも、アプリケーションの基本的な部分に興味があります。さっきも触れたように、これまでに3DモデリングやVFXなどの手の込んだソフトウェアをいろいろ試してきましたが、遅かれ早かれイライラして興味を失ってしまうことが多いです。自分の「ツール」(と呼んでいいかわかりませんが…)では、手の込んだGUIもエディタも作りません。手間がかかるうえに、全然楽しいと思わないからです。そういうのを試してみたらどうなるかな、という興味は少しありますが、優先順位としてはかなり下のほうにありますね。
 
プログラミングでは、C++向けのVisual Studio IDEと、シェーダーコードなどのテキストエディタとしてSublime Textを使っています。それと、一部の読者の方のために説明しておくと、ツールにシンプルなImGuiウィジェットを導入することは検討していて、たぶん導入すべきだろうなと思っています。すでにライブラリでは試してみていて、わりと使いやすいのですが、まだ実用的なところまではいっていません。
 
私がデモを作るのは、その作業がとても楽しいからであり、これ以外の場所(日々の業務など)では特定のスキルを同じように活用できないからなんです。私がやりたいのはビジュアルを作ることであって、アプリケーション全体を維持したり開発したりすることではありません。そういうのは、仕事でなければやろうとは思いません!
 
 
ツールと言えば、最近何かと話題になっているAIについて、どう思いますか?トレンドと言っていいのかわかりませんが、AIを利用した画像やテキストを目にする機会は間違いなく増えてきていますよね。
 
なんだかリチャード・ストールマンみたいな言い方になってしまうのであれですが、はっきり言って、現在利用できるツールやサービスで「人工知能」と呼べるものはないと思っています。いま、視覚的な「AIアート」と呼ばれるものは、「画像合成装置」という呼び名のほうがしっくりくると思いますね。
 
 
画像合成装置!なるほど、そのほうがしっくりきますね!でも、メディアの情報を見聞きしていると、もうボタン1つでデモが作れるんじゃないかと思ってしまいます。「ヘイなんとか、カッコいい音楽を使ったカッコいいデモを作って」って言えば完成しそうな感じというか。こうしたツールを使ってデモを作ることは可能なのでしょうか?もしできるとしたら、私みたいな人間(プログラミング・音楽・グラフィックスのスキルがゼロの人間)が、コンポに作品を出し始めることになると思うのですが…。
 
プロンプトか何かに基づいてデモ全体を作り出すツールのようなものは出てこないと思いますよ。私には、「AIがデモを作る」という考えは仮説としても無理があり、現在のテクノロジーの状況からかけ離れた空想のように思えます。
 
 
なるほど、それが実情なんですね。知ることができてよかったです。コンポの未来が危ないかもと、少し心配していました。
では、定番の大切な質問にいきましょう。好きなデモ、心に残るデモ、人生を変えたデモ…。nobyさんにとって特別なデモやシェーダーを教えてください。
 
すべて違うカテゴリーになると思うので、それぞれに違った角度からアプローチしたいと思います。
 
人生を変えたデモには、先ほども話した『Lifeforce』と『Crystal Dream II』が間違いなく入ります。この2つのデモは、そもそもデモシーンに興味を持つきっかけになった作品です。今はもう「好きなデモ」には入りませんが、きっかけを与えてくれたことに感謝している作品です。
 
思い出深いデモには、Farbrauschの『Rove』(ビデオ)やFairlightの『Agenda Circling Forth』(ビデオ)が入ります。この2つは、2010年に行われたデモパーティー「Breakpoint」の最終回で、最後の作品として公開されたものなんです。当時の私はまだデモシーンに参加するようになったばかりで、ほとんど作品も作っていませんでしたが、シーンの中が大騒ぎになっていて、不安定な状況だったのを覚えています。そんな時、PCデモのコンポにあれだけ圧倒的な作品が発表されると、安心感と、この先への希望が見えました。私は配信で見ていたのですが、その年の終わりには友達とStream 2010に参加して、本物のデモパーティーのデビューを果たしました。それまでに行ったことがあったのはAssemblyだけだったので、まったく違う体験でした。特にKewlersの『MF Real』(ビデオ)をライブで見られたのは信じられない体験でしたね。実際のコンポを見たことは強烈な記憶として残っています。
 
ここで紹介したのは明らかな例ですが、好きなデモに関しては自分のページにまとめてあります。ただ、あまりにも多くてすべて説明できないので、リストからいくつか選んでみました。今の自分の気分に合うものを、リリース年の順で並べています。
 
Caero by Plant & Electromotive Force (1995, MS-DOS/PC) (ビデオ)
73 Million Seconds by Pulse (1998, MS-DOS/PC) (ビデオ)
My Bird-Cage by Jamm (1998, MS-DOS/PC 64k) (ビデオ)
Fetish by Ozone (1999, AGA/Amiga 64k) (ビデオ)
Mush Ca by tb2 (2000, Win/PC) (ビデオ)
{ by Downtown (2001, MS-DOS/PC 64k) (ビデオ)
Energia by Sunflower (2001, Win/PC) (ビデオ)
Hello:FRIEND by Fairlight (2005, Commodore 64) (ビデオ)
Vokawardoai by Satori (2010, Win/PC) (ビデオ)
Black And White Lies by One Studio Off (2014, Win/PC) (ビデオ)
400 by Satori (2016, Win/PC) (ビデオ)
Transformer 3 by Limp Ninja (2019, Win/PC) (ビデオ)
 
たぶん、Calodoxが2005~2007年に作った4Kイントロの「ikum」シリーズについても触れるべきですかね。まだ、この作品のビジュアルのスタイルや不穏な雰囲気を真似してみたことはないのですが、彼らの創作力と特徴的なスタイルには深い影響を受けています。「Collektikum」のパッケージからすべてチェックできますよ。
 
 
広範囲にわたる素晴らしいリストをありがとうございます!
 
デモシーンとの出会いによって、人生が変わったと思いますか? 
 
間違いなく大きな影響を受けています。長年付き合いのある親しい友人のほとんどがデモシーンを通して知り合った人ですし、自分の趣味の多くや現在の職業へとつないでくれた大きな理由の1つがデモシーンでもありますから。
 
 
nobyさんのインスピレーション源を知るためのヒント3

(写真提供:noby)

 
 
大きな質問ですが、あなたにとってデモ、デモシーンとは何ですか?
 
デモシーンに惹かれた理由を正確に捉えるのは難しいです。自分の人格が形成される時期にデモシーンに興味を持って参加するようになったので、自分がその性質に魅力を感じたのか、それともシーンから影響を受けて好きになったのか、はっきりとわからないんです。でも、たぶんその中間ぐらいだと思いますし、自分がデモシーンの性質に魅力を感じた部分は確実にあると思います。
 
すぐに自覚したわけではありませんが、デモシーンに魅力を感じた理由の1つに、非営利的な面というのがあります。もちろん、デモパーティーのイベント自体は商業的なものであり、参加者やスポンサーからの支払いに頼っているわけですが、それ以外の制作活動に関しては、外側からの商業的圧力とは関係ありません。出来栄えによって影響を受ける利害関係者もいなければ、商業的な可能性や利益に基づいて判断されることもありません。
 
クリエイターエコノミーがますます社会経済に組み込まれるようになった現代では、多くの創造の場に邪悪なオーラが漂い始め、冒険的な取り組みの商業的可能性を評価したり、創作物を収益化する方法を模索したり、マーケティングやソーシャルメディアの活用を促進したりすることが推奨されるようになっています。デモシーンは、そうしたこととは関係がありません。私たちが作るデモは、ほぼ例外なく本質的に商業価値のないものだと言える気がします。デモを作る作業にはそうした邪悪なオーラが入る余地がないので、解放感を覚えます。
 
そうは言っても、デモやそこから生まれた副産物(特にデモツール)に大きな個人的な利益を生む可能性があることは否定できません。でも、少なくとも私の考えでは、こうしたものは後からの思い付きであって、制作した後に自然発生的に生まれたものか、必要に迫られての選択だと考えています。(結局のところ、こうしたものは履歴書などに書くものとしては最高なんですよね。)
 
デモ制作自体を商業化できないということは、デモを作るためのある程度の余裕が必要になるということでもあります。自由になる時間をデモの制作に費やすには、金銭面もそうですが、精神面やその他の面も安定していなければなりません。これは、誰にでもできることではないですよね。
 
 
確かに、私もこれがデモシーンの基本的価値観の1つだと思います。なんでも収益化しようとするご時世の中で、こういう活動を理想主義的と言う人もいるかもしれませんが、私はデモシーナーを「ラッキーでハッピーな人たち」と呼びたいです(軽すぎますか?笑)。nobyさんの言う通り、自分が楽しいと思うことをできる状況にあるわけですから。
 
では、これから作ってみたいデモはありますか?
 
まだ実現していない未来の計画を語れば語るほど、その実現の可能性は低くなるというパターンに気が付いたんです。ただの私の思い込みで、他の人のことをとやかく言うべきではないかもしれませんが、少なくとも私にはこのパターンが当てはまります。プロジェクトのことを考えれば考えるほど、アイデアが空想の世界に行ってしまう。だから、アイデアを放っておくように扱うと、実際のプロジェクトに取り組めるようになります。アイデアが完全に空想になってしまうと、具体的な計画に戻すのが本当に難しくなるんです。
 
何が言いたいかといえば、未完成のプロジェクトのアイデアがいろいろあるということです。内容は秘密です!うまくいったプロジェクトのほとんどが、まるで直感に導かれるように気まぐれで始まったのも、こうした理由からかもしれません。
 
 
長編映画を撮ってみたい野望とか…何かありますか?
 
デモに関しては、いつも長めの形式に興味があります。過去の作品でも何度か試したことなんですが、観客が退屈し始める長さの限界に挑戦しています。もっと長くやってみたいですね。30分以上あるデモの制作に挑むのもいいと思います。(ちなみに、スクローラーが多い昔のメガデモのことだけを言っているのではありません。)この形式に挑んだ人は他にもいて、私の場合、特にmfxのデモに刺激を受けてきました。
 
それから、デモシーン以外で映像作品を作ることにも興味があります。これまでにも、いろいろな短編映像を作り、(そして、そのほとんどが紛失しましたが、、)長めのプロジェクトにも挑戦してきました。でも、こういったプロジェクトはうまくいく可能性が低いので、あまり話さないほうがいいですかね。
 
 
わかりました。是非実現させてほしいので、これ以上は聞かないことにしますね(笑)
では最後に、デモシーナー、デモファンの方にメッセージをお願いします!
 
デモシーンは、行動や可能性を制限する場所ではありません。挑戦するという目的のためだけでもいい、できる限り境界や限界を飛び越えてください。停滞は、最もたちの悪い毒のようなものです。でも、そのプロセスの中で、お互いに優しく接するようにしましょう。今の世の中で私たちに強く求められているものの1つが「共感」です。デモシーンの人たちだけでなく、友達や、さまざな場所で交流する人たちに誠意を持って接してください。
 
 
——————————————————————–
 
nobyさん、夏のイベントが目白押しの中、インタビューに答えてくださりありがとうございました!
 
nobyさんの作品は、Pouet や demozoo のリストからチェックできます。文中にも登場したディレクションに関するnobyさんの記事「A Critical Look at the Demoscene On “Direction” and Related Matters」は、こちらから読めます。
 
また、nobyさんはデモシーンのポッドキャスト番組「ZINE: The Radio Show」でもディレクションについてお話しされています。ご興味のある方は、是非こちらもチェックしてみてください。(この番組、他のエピソードも面白いです!)
 
 
デモシーナーのインタビューシリーズをお読みいただき、どうもありがとうございました!
 
——————————————————————–
 

– そもそもデモってなに?パソコンの話?と思った方は、まずはこちらのMoleman2のドキュメンタリーをチェック。(この映画の監督、シラードさんのインタビューはこちらでどうぞ。)

  #1: 日本のデモシーナー、qさん(nonoilgorakubuのコーダー)にインタビューは、こちら

  #2: デモシーナー、Gargajさん(ConspiracyÜmlaüt Design)にインタビューは、こちら

  #3: デモシーナー、Preacherさん(BrainstormTraction)にインタビューは、こちら

  #4: デモシーナー、Zavieさん(Ctrl-Alt-Test)にインタビューは、こちら

  #5: デモシーナー、Smashさん(Fairlight)にインタビューは、こちら

  #6: デモシーナー、Gloomさん(ExcessDead Roman)にインタビューは、こちら

  #7: 日本のデモシーナー、kiokuさん(System K)にインタビューは、こちら

  #8: デモシーナー、kbさん(Farbrausch)にインタビューは、こちら

  #9: デモシーナー、iqさん(RGBA)にインタビューは、こちら

#10: デモシーナー、Navisさん(Andromeda Software Development)にインタビューは、こちら

#11: デモシーナー、Pixturさん(Still, LKCC)にインタビューは、こちら

#12: デモシーナー、Crypticさん(Approximate)にインタビューは、こちら

#13: 日本のデモシーナー、0x4015(よっしんさん)にインタビューは、こちら

#14: デモシーナー、FlopineCookie Collective)にインタビューは、こちら

 

私がデモシーンに興味を持った理由、インタビューを始めた理由は、こちらの記事にまとめてあります。また、デモやデモシーンに関連する投稿はこちらからどうぞ。

 

Add a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *