「デモシーナーにインタビュー」へようこそ。今回は、EpochやPrismbeingsをはじめ、数多くのグループ・プロジェクトに関わりながら活動しているnobyさんをゲストにお迎えしました。
nobyさんは、オールラウンダーであり、デモシーナーとしては比較的新しい世代(リアルタイムでAmigaやC64に触れていない世代)に属します。ミュージシャン、コーダー、デザイナー、ディレクターなどなど、さまざまな肩書をお持ちですが、インタビューを終えた今は、そのリストに思想家とコレクターも加えたほうがいいかも、と感じています(笑)。
チャットで行った今回のインタビューでは、nobyさんがソロ活動を始まるまでの経緯、ソロ活動とコラボレーションのメリットとデメリット、そしてデモシーンにおける「ディレクション」の定義を見直すべき理由などについて語っていただきました。
また、インスピレーション、感情、現在のAIのトレンドなどについても触れております。かなり長めとなっておりますので、楽な姿勢で、お好きな飲み物などご用意のうえお楽しみください!
注:デモシーンって何?と思った方は、まずはこちらのページからどうぞ。そしてデモのドキュメンタリーをチェック。
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まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?名前、グループ、そこでの役割を教えてください。
デモシーンでは大体「noby」のハンドルネームを使っています。いろんなグループに参加してきましたが、大きく関わってきたのはEpochとPrismbeingsの2つですかね。Prismbeingsはソロ活動の時に使うグループ名で、主にサイズ制限のある作品を作っています。それから、Macau ExportsやEmpathyといったグループでも活動しています。他にも関わっているグループがありますが、それは秘密のままにしておきます!それと、Ekspertのメンバーではないかという噂がありますが、この機会をお借りして、このグループの作品に関わったことは一切ないとお伝えしておきます。
役割という観点で考えたことはないですが、もしそういう役割で自分を表現するなら、おそらく「コーダー」か「ミュージシャン」になるでしょうね。でも、そんなに好きな作業ではないので、自分のことをコーダーだとは思っていません。プログラミング自体を楽しいと思ったことはほとんどないんです。どちらかといえば、視覚的なものを作る時に使えるツールというか、「目的を達成するための手段」のように考えていますね。
近頃は、というか、そもそもかもしれませんが、デモ制作には複数の分野における高度な知識が必要になるので、「役割」というカテゴライズはあまり意味を持たないと思うんですよね。私の場合は、デモを完成させるために必要なことをただやるといった感じです。
Prismbeingsはソロ活動なので、すべて自分でやる必要がありますよね。このプロジェクトはどんな風に始まったのですか?
最初から1人でやろうと思っていたわけではないんです。制作プロセスを最初から最後まで1人でこなすのは無理だとずっと思っていましたから。だから、少しずつ進歩していって、最終的に1人ですべてを判断しながら作れるようになっていきました。
Zetsubo by Prismbeings (2018) 4K intro
コラボレーションとソロ活動と両方経験されていますが、それぞれのメリットとデメリットを教えていただけますか?
他の人とコラボレーションする時には、少し仕切りたくなってしまうこともあります。それと、プロジェクトにしっかり貢献したいと思うと、クリエイティブな面を決める際にも関わりたいと思ってしまうんです。コラボレーションの相手と、その人がどのくらい自分でコントロールしたいかにもよりますが、場合によってはこれが理由で関係が悪くなってしまったり、パッとしない作品に仕上がってしまったりします。その点、1人で作業すると、すべて自分で決められるので、こういった問題は起きません。
でも、EpochのデモをSimoやDysposinなどのメンバーと作る時に、そういう問題が起きたことはないですね。だから、チームとの相性にもよると思います。特にSimoとはクリエイティブの面でも技術的な面でもお互いを補い合える関係だと思っていて、一緒に作業していて楽しいです。
なるほど。複数の人がハンドルを握ろうとすると問題が発生するわけですね…。でも、ソロ活動も、それはそれで大変そうな気がしますが。
自分1人ですべての役割をこなして完成させる責任はありますが、私にとっては、その責任よりも1人ですべてをコントロールできるという自由な感覚のほうが、はるかに魅力的に感じます。コラボレーションするのも楽しいですが、1人の時とはまた違った思考のモードが必要になるんです。
自分のアイデアを実現させるには、少し仕切り屋になるくらいでないと難しいのかもしれませんね…。
当然、こうしたことはすべて「ディレクション」のコンセプトにつながっています。つまり、プロジェクト管理の責任と、出来上がった作品の雰囲気のことです。プロジェクトを誰が管理し、クリエイティブ面の最終判断を誰がするのかを、はっきり理解しておく必要があります。もちろん、複数の人が担当する場合もありますが、こうした細かい点は、プロジェクトに関わる全員で理解しておく必要があります。
ディレクションと言えば、nobyさんが書いた記事を読みました。デモシーンにおける「ディレクション」の定義について深く掘り下げていましたが、ディレクションの重要性に気が付いたのはいつですか?何か具体的なきっかけがあったのでしょうか?
特にこれといった出来事があったわけではありません。私が知る限り(またはそれ以前から、かな)、デモシーンにはずっと監督のような役割の概念は何となくあったんです。だから、私も最初からデモシーンの中で共通理解されているこの概念については把握してきました。とはいえ、デモシーンが「ディレクション」をうまく扱っているかといえば、そういうわけではない。それが、ディレクションについてセミナーで話し、関連する記事を書くことにつながりました。
コンセプトとして役に立つという意味では、ディレクションはデモシーンが考えているよりも、もっとずっと具体的なプロセスなんです。デモシーンではディレクションを派手なカメラの動きや隙のない編集と捉える傾向がありますが、それは本質的な「ディレクション」ではないと私は考えています。しっかりとディレクションされたデモとは、まとまりがあり、意図があり、その意図がうまく伝えられているものです。巧みなカメラワークや編集といった脇役的なもの、そしてあまり目立たない部分などは、うまいディレクションの結果生まれたもので、それ自体がディレクションではありません。大切なのは、表面的にうまく見せようとするよりも、1つのレイヤーにより深く集中することだと思いますね。
こうしたディレクションをする際に、どんなところからインスピレーションを得ていますか?たくさん映画を見るとか?
ディレクションのプロセスに関していえば、特にインスピレーションをどこかから得ているわけではありません。視覚的なメディアを管理・監督することは、どちらかといえば言語を理解し、話すことに近いと思っているので、具体的にどこからインスピレーションを得ているという答え方はできません。少し詳しく説明すると、言葉を話すために意識的にどこかからインスピレーションを得ている人はいなくて、私たちはただ観察から得たパターンや慣習を、望む結果になるように組み合わせたり適応させたりしながら、応用しているだけなんです。言語と違う点は、ディレクションの場合、自分の言語を構築する自由があるところです。この自分で作った言語を使って、予想される観客に意図を伝えていきます。
もちろん、ある慣習やテクニックだったり、場合によっては情報源を参照して自分の作品に取り入れることもありますが、大体はただ自分の直観と感覚を使って作業しています。ディレクションの方法を学ぶには、何よりもまず既存の作品を観察し、そこで選択されているものが自分をどんな気持ちにさせるのか考えてみることです。私のディレクションのスタイルは、これまでの人生で目にしてきた既存メディアとの関係が反映された結果だと思います。
なるほど。では、別の方法からアプローチさせてください。nobyさんの周りの環境を知りたいので、何枚か写真を撮ってもらえますか?
それと、ディレクションについて理解するのに役立つ、お勧めの方法などあれば教えてください。
もし具体的に何かお勧めするなら、ちょっと月並みですが、「クレショフ効果」について知ること、それとエイゼンシュテインのモンタージュ理論の概念を理解することが、より明確な編集をする際の基盤となると思います。デモ制作に応用できる部分は限定的かもしれませんが、私の場合は、さまざまな用途で役立ちました。
nobyさんのインスピレーション源を知るためのヒント1
(写真提供:noby)
ありがとうございます。では、そもそもの始まりについて聞かせてください。デモシーンとはいつ、どんなきっかけで出会いましたか?
デモシーンのことは少しずつ知るようになった感じです。フィンランドのオンラインコミュニティで、音楽を作るならトラッカーがいいと誰かが勧めていて(私にではなく一般論として)、それで2004年にトラッカーミュージックを作り始めました。その時、私は11歳だったのですが、すぐに夢中になり、他の人が作ったものを聴いたり、自分でモジュールを作ったりするようになりました。
11歳でトラッカーミュージックを作り始めたということは、すでに当時、音楽にすごく興味があったのですか?
音楽にはずっと興味がありましたが、当時はまだ自分の好みが確立していませんでした。こういうものに関する具体的なモチベーションについて語るのは難しいですね。当時、特に推奨されていたのはMadTracker IIで、このプログラムは標準的な「オールドスクール」のトラッカーというだけでなく、現代的な機能も入っていました。たとえば、定番のトラッカーよりも高機能なサンプルプレイバックエンジンや、内蔵のDSPエフェクト、VSTプラグインサポートとかですね。もちろん、当時11歳の私には、すぐには何もわかりませんでしたけど、無料で使えるということが一番重要だったんだと思います。無料か、または高品質のエクスポートはできない無料バージョンがあるということですね。無料で必要な機能がすべて使える(といっても、かなり制限されますが)ものは、当時はほとんどなかったと思います。
当時は、MadTracker II以外のツールも使っていました。いろんなプログラムをコンピュータにダウンロードして試していたのを覚えています。3Dモデリングのツールとか、画像エディタとか、いろいろ試してみましたが、圧倒的に熱中したのが音楽でした。
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nobyさんのインスピレーション源を知るためのヒント2(好きな音楽アルバム) 「ご存じないかもしれませんが、私はレコードを集めていて、1980年代あたりの日本のポップスやニューエイジっぽいシンセ音楽のレコードもかなり持っています」 (写真提供:noby) |
Waillee by Prismbeings (2017) 4K intro
73 Million Seconds by Pulse (1998, MS-DOS/PC) (ビデオ)
My Bird-Cage by Jamm (1998, MS-DOS/PC 64k) (ビデオ)
Fetish by Ozone (1999, AGA/Amiga 64k) (ビデオ)
Mush Ca by tb2 (2000, Win/PC) (ビデオ)
{ by Downtown (2001, MS-DOS/PC 64k) (ビデオ)
Energia by Sunflower (2001, Win/PC) (ビデオ)
Hello:FRIEND by Fairlight (2005, Commodore 64) (ビデオ)
Vokawardoai by Satori (2010, Win/PC) (ビデオ)
Black And White Lies by One Studio Off (2014, Win/PC) (ビデオ)
400 by Satori (2016, Win/PC) (ビデオ)
Transformer 3 by Limp Ninja (2019, Win/PC) (ビデオ)
大きな質問ですが、あなたにとってデモ、デモシーンとは何ですか?
デモシーンに惹かれた理由を正確に捉えるのは難しいです。自分の人格が形成される時期にデモシーンに興味を持って参加するようになったので、自分がその性質に魅力を感じたのか、それともシーンから影響を受けて好きになったのか、はっきりとわからないんです。でも、たぶんその中間ぐらいだと思いますし、自分がデモシーンの性質に魅力を感じた部分は確実にあると思います。
すぐに自覚したわけではありませんが、デモシーンに魅力を感じた理由の1つに、非営利的な面というのがあります。もちろん、デモパーティーのイベント自体は商業的なものであり、参加者やスポンサーからの支払いに頼っているわけですが、それ以外の制作活動に関しては、外側からの商業的圧力とは関係ありません。出来栄えによって影響を受ける利害関係者もいなければ、商業的な可能性や利益に基づいて判断されることもありません。
クリエイターエコノミーがますます社会経済に組み込まれるようになった現代では、多くの創造の場に邪悪なオーラが漂い始め、冒険的な取り組みの商業的可能性を評価したり、創作物を収益化する方法を模索したり、マーケティングやソーシャルメディアの活用を促進したりすることが推奨されるようになっています。デモシーンは、そうしたこととは関係がありません。私たちが作るデモは、ほぼ例外なく本質的に商業価値のないものだと言える気がします。デモを作る作業にはそうした邪悪なオーラが入る余地がないので、解放感を覚えます。
そうは言っても、デモやそこから生まれた副産物(特にデモツール)に大きな個人的な利益を生む可能性があることは否定できません。でも、少なくとも私の考えでは、こうしたものは後からの思い付きであって、制作した後に自然発生的に生まれたものか、必要に迫られての選択だと考えています。(結局のところ、こうしたものは履歴書などに書くものとしては最高なんですよね。)
デモ制作自体を商業化できないということは、デモを作るためのある程度の余裕が必要になるということでもあります。自由になる時間をデモの制作に費やすには、金銭面もそうですが、精神面やその他の面も安定していなければなりません。これは、誰にでもできることではないですよね。
確かに、私もこれがデモシーンの基本的価値観の1つだと思います。なんでも収益化しようとするご時世の中で、こういう活動を理想主義的と言う人もいるかもしれませんが、私はデモシーナーを「ラッキーでハッピーな人たち」と呼びたいです(軽すぎますか?笑)。nobyさんの言う通り、自分が楽しいと思うことをできる状況にあるわけですから。
では、これから作ってみたいデモはありますか?
まだ実現していない未来の計画を語れば語るほど、その実現の可能性は低くなるというパターンに気が付いたんです。ただの私の思い込みで、他の人のことをとやかく言うべきではないかもしれませんが、少なくとも私にはこのパターンが当てはまります。プロジェクトのことを考えれば考えるほど、アイデアが空想の世界に行ってしまう。だから、アイデアを放っておくように扱うと、実際のプロジェクトに取り組めるようになります。アイデアが完全に空想になってしまうと、具体的な計画に戻すのが本当に難しくなるんです。
何が言いたいかといえば、未完成のプロジェクトのアイデアがいろいろあるということです。内容は秘密です!うまくいったプロジェクトのほとんどが、まるで直感に導かれるように気まぐれで始まったのも、こうした理由からかもしれません。
長編映画を撮ってみたい野望とか…何かありますか?
デモに関しては、いつも長めの形式に興味があります。過去の作品でも何度か試したことなんですが、観客が退屈し始める長さの限界に挑戦しています。もっと長くやってみたいですね。30分以上あるデモの制作に挑むのもいいと思います。(ちなみに、スクローラーが多い昔のメガデモのことだけを言っているのではありません。)この形式に挑んだ人は他にもいて、私の場合、特にmfxのデモに刺激を受けてきました。
それから、デモシーン以外で映像作品を作ることにも興味があります。これまでにも、いろいろな短編映像を作り、(そして、そのほとんどが紛失しましたが、、)長めのプロジェクトにも挑戦してきました。でも、こういったプロジェクトはうまくいく可能性が低いので、あまり話さないほうがいいですかね。
わかりました。是非実現させてほしいので、これ以上は聞かないことにしますね(笑)
では最後に、デモシーナー、デモファンの方にメッセージをお願いします!
デモシーンは、行動や可能性を制限する場所ではありません。挑戦するという目的のためだけでもいい、できる限り境界や限界を飛び越えてください。停滞は、最もたちの悪い毒のようなものです。でも、そのプロセスの中で、お互いに優しく接するようにしましょう。今の世の中で私たちに強く求められているものの1つが「共感」です。デモシーンの人たちだけでなく、友達や、さまざな場所で交流する人たちに誠意を持って接してください。
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nobyさん、夏のイベントが目白押しの中、インタビューに答えてくださりありがとうございました!
nobyさんの作品は、Pouet や demozoo のリストからチェックできます。文中にも登場したディレクションに関するnobyさんの記事「A Critical Look at the Demoscene On “Direction” and Related Matters」は、こちらから読めます。
また、nobyさんはデモシーンのポッドキャスト番組「ZINE: The Radio Show」でもディレクションについてお話しされています。ご興味のある方は、是非こちらもチェックしてみてください。(この番組、他のエピソードも面白いです!)
デモシーナーのインタビューシリーズをお読みいただき、どうもありがとうございました!
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そもそも“デモ”ってなに?パソコンの話?と思った方は、まずはこちらのMoleman2のドキュメンタリーをチェック。(この映画の監督、シラードさんのインタビューはこちらでどうぞ。)
#1: 日本のデモシーナー、qさん(nonoil、gorakubuのコーダー)にインタビューは、こちら。
#2: デモシーナー、Gargajさん(Conspiracy、Ümlaüt Design)にインタビューは、こちら。
#3: デモシーナー、Preacherさん(Brainstorm、Traction)にインタビューは、こちら。
#4: デモシーナー、Zavieさん(Ctrl-Alt-Test)にインタビューは、こちら。
#5: デモシーナー、Smashさん(Fairlight)にインタビューは、こちら。
#6: デモシーナー、Gloomさん(Excess、Dead Roman)にインタビューは、こちら。
#7: 日本のデモシーナー、kiokuさん(System K)にインタビューは、こちら。
#8: デモシーナー、kbさん(Farbrausch)にインタビューは、こちら。
#9: デモシーナー、iqさん(RGBA)にインタビューは、こちら。
#10: デモシーナー、Navisさん(Andromeda Software Development)にインタビューは、こちら。
#11: デモシーナー、Pixturさん(Still, LKCC)にインタビューは、こちら。
#12: デモシーナー、Crypticさん(Approximate)にインタビューは、こちら。
#13: 日本のデモシーナー、0x4015(よっしんさん)にインタビューは、こちら。
#14: デモシーナー、Flopine(Cookie Collective)にインタビューは、こちら。
私がデモシーンに興味を持った理由、インタビューを始めた理由は、こちらの記事にまとめてあります。また、デモやデモシーンに関連する投稿はこちらからどうぞ。
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