デモシーナー、Pixturさん(Still, LKCC)にインタビュー


「デモシーナーにインタビュー」へようこそ。今回は、デモグループStillLKCCでデザインとグラフィック(、とコード)を担当されているPixturさんにお話を伺いました!
 
インタビューでは、デモシーンとの出会い(人生いろいろです)、「コンセプト」を持つことの重要さ、創作のインスピレーションと、アイデアを形にする方法などについて語っていただきました。
 
個人的に、Pixturさんの作品には「すごく細かいところまで気を配っている」という印象があるのですが、お話を聞いて、なるほどぉ~といろいろ納得しました(笑) どうぞお楽しみください!
 
 
——————————————————————–
 
まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?
 

photo by Pixtur

こんにちは、トーマス・マン(Thomas Mann)といいます。ドイツの有名な小説家と同じ名前ですが、この名前で期待した学校の先生たちからは随分がっかりされたものです。デモシーンではPixturというニックネームでLKCCStillでというグループで活動しています。時々ですが、Bauknechtなど、他のグループとコラボレーションすることもあります。グループで担当して、いちばん自分でもしっくりくる役割は、コンセプトと編集ですかね。過去には3Dモデリングやコンポジションの経験もあります。

 
小さい頃からコンピュータに興味があったのですか?初めてコンピュータを見た時のことを覚えていますか?
 
僕は東ドイツで育ちました。当時の共産主義体制には一般までコンピュータを普及させるだけの資金はありませんでしたが、コンピュータ工学の重要性はよく理解していたようで、子供向けの雑誌にもコンピュータ科学の話題が頻繁に取り上げられていたんです。僕は(それを見て)すごく夢中になりました。段ボールでコンピュータの模型を作って、打ち込むフリをして遊びましたね。たしか紙でスクリーンも作って、段ボールのディスプレイ部分に差し込めるようにしたんじゃなかったかな。
 
 
かわいらしいですね!それにすでにクリエイティブな感じ(笑) おいくつぐらいの時ですか?
 
よく覚えてないんですが、10歳ぐらいですかね?
 
 
なるほど。でも、その後に実物のコンピュータと出会うわけですよね?
 
仲良くしていた友達の父親がコンピュータを使うエンジニアで、興味がある子供たちにBASICを教えてくれることになったんです。彼は自作のコンピュータを使っていて、キーボードもエレベーターのボタンで作ったものを使っていました。プログラムを保存する方法がなかったので、プログラムを紙に書いて、それを打ち込んでテストしましたね。とにかく僕たちのやる気を引き出してくれる先生でした。僕が12歳ぐらいの時ですね。
 
その後は、放課後にやっている子供向けのコンピュータ科学プログラムに参加するようになりました。共産主義では物事が体系化されていなかったので、本物のコンピュータに触れる前に、「機械コードを使ったポケット電卓のプログラミング」みたいなコースを受講する必要があったんですよね。それから数年間は暇ができるといつもそこで過ごすようになって、僕と同じようにコンピュータに興味を持っている同じ年代の人達と出会いました。それで、そこで知り合った友達と「LKCC」というコンピュータクラブを作ったんです。今でもみんな親しくしていますよ。
 
プログラムに参加し始めて数年経つとBASICPascal、アセンブリ言語が板についてきて、その頃になると先生が僕たちの質問にはほとんど答えられなくなっていましたが、それでも賢くてモチベーションを与えるのがとても上手な先生たちでしたね。
 
 
そこで学んだプログラミング言語を使って、ゲームなど何か実際に作りましたか?
 
まずゲームのプログラミングから始めて最終的にはデモのプログラミングもやりましたが、1989年に鉄のカーテンが降りてしまったので。
 
 
えっ、どうなったのでしょう?鉄のカーテンが降りたことで、クラブにどんな影響があったのですか?
 
ちょっと悲しい話なんです。そのプログラムを実施していた団体の名前が「Pionierhaus(パイオニアハウス)」といって、訳すと「先駆者たちの家」みたいな感じなんですね。で、当時(注:ドイツ再統一の時代、東ドイツは西ドイツに編入された)は、共産主義に関連するものは何でも嫌われたので、この名前は縁起が悪いということになったんです。運営していたのは共産主義者とは程遠い、本当に親切なオタクっぽい先生たちで、政治的な意図なんて何もなかった。あえて言うとすれば、彼らはハッカーのサブカルチャーを生み出そうとしていたんだと思います。それで、その場所は(統一後)12年以内に強制的に閉鎖されました。そんな経緯があるので、ドイツの政治家が「若いエンジニアが少ない」と不満をもらしているのを聞くと今でも腹が立ちます。
 
ただ、体制が変わったおかげで、本物のコンピュータを買えるようにはなりました。その頃になると、僕たちはみんなゲームに夢中になって、数年間は「Doom」で遊びましたね。ゲームのハッキングやクラッキングをしていた仲間もいたし、僕もBBSイントロや資料を書いたりしましたけど、そのうち、そういうのにみんな興味を失くしてしまったんですよ。でも、コンピュータクラブのメンバーはほとんどが同じ大学に通っていたので、LKCCをバレーボールのチームにして、23年間は学生リーグに参加してました。1回は優勝してたと思いますね。ちょっと話がそれちゃったけど、聞かれたことだからいいですよね(笑)
 
 
もちろん(笑) 私はこういうトリビアが大好きなもので。それにしても、バレーボールのチームにするなんて、転んでもタダでは起きませんね!良かったです。 でも、ちょっと不思議だなと思うのは、それだけプログラミングのことを学んできたのに、ゲームを作るのではなくゲームで遊ぶことに熱中したという点です。何か理由があるのでしょうか?
 
当時、僕と友達で『Wolfenstein 3D』みたいなゲームエンジンを開発していたんですよ。ソースコードが1MB以上あって、そのほとんどが高度に最適化されたアセンブリ言語でした。そんな時にDoomが発売されたんです。このゲームを初めて見た時のことは今でもはっきりと覚えています。ゲーム開発者になるという僕たちの夢が壊れた瞬間でしたからね。アセンブリ言語で2つの機能しか必要としないのに(残りはC++)、曲線状の壁や階段、窓まで使っていたし、それに僕たちのエンジンよりも速かった。これは僕にとって、「優れたアルゴリズムは常に最適化に勝る」、「早まった最適化は良くない」ということを教えてくれた出来事でしたね。だから、このゲームを見た後はプログラミングをやめて、ゲームで遊ぶようになりました。
 
 
面白いですね。普通は、すごいゲームを見たから自分でもゲームを作ろうと思った、という流れなのかと思ってましたが、その逆だったんですね! では、デモシーンとはいつ、どのようにして出会ったのでしょう?出会いと、自分でデモを作るようになるまでの経緯を教えてください。
 
大学時代、僕は2人の学生とアパートをシェアしていたのですが、ひとりはLKCCのメンバーで、もうひとりが僕と同じ建築学科のNeroだったんです。彼は暇さえあればオールドスクールのデモ(Matrixの『The Fulcrum[video]など)を作っていました。
 
Neroの尽きることのないやる気にはいつも驚かされていましたが、正直こんなに多くの時間を「デモ作り」に費やす人たちのことはよく理解できませんでした。ちょっと常軌を逸しているんじゃないかと思いました。でも、数年後にSalva MeaDiverにデモに使うモデリングをやってくれないかと頼まれて、見たらコンセプトも良さそうだったので参加することにしたんです。そのデモ(『Kassiopeia)は2002年のEvokeでリリースして、2位になりました。あの週末は、僕の人生の中で最もやりがいを感じた時間のひとつでした。あれ以来、デモにハマっていますね。
 

 

 
 
初めてのデモづくりはいかがでしたか?楽しかったですか?
 
Salva Meaのメンバーとの制作は、本当にストレスのたまる作業でした。タイミングに関して言えば、僕は自分ですべてを管理したいタイプなんだと思います。まあ、とにかく作品はリリースできたし、僕もその作業から多くのことを学びました。
 
その作品の後は、Madと小さめのプロジェクトをやりました。Mad3Dエンジンを作って良い音楽も用意できていたので、そこに僕が突然デザイン面を担当することになったんですよ。最初はデザインのことで揉めたりしていたんですが、最後にはコーダーに「もっとエフェクトをくれ、もっとこっちにコントロールさせてくれ」と頼む結果になりましたね。


Still @Revision photo by Pixtur
 

今私の頭のなかでは、車のハンドルを奪い合う男子の姿が浮かんでおります(笑) ところで、先ほど「建築学科」という言葉が出ましたが、大学では建築を専攻していたのですか?小さい頃からずっとコンピュータが好きだったのに、そちらの方面には行かずに建築を選んだのはなぜでしょう?
 
LKCCには僕より年上のメンバーもいて、すでに大学でコンピュータ科学を勉強し始めていた人もいたんです。時間がある時に僕も行ってみたりしましたが、ほとんどのコースが信じられないほどつまらないし、学科のビルがひどい見た目だったんですね。それで単純に、「コンピュータ科学を専攻するのは退屈なことだ」と思い込んだんです。当時僕はよくスケッチをしていたので「それなら建築学科はどうか」と勧められることがあって、願書を出してみたらどういうわけだか受かってしまったんですよ。
 
入学して最初の2年間はかなり難しかったです。それと、建築学科の学生のほとんどが表面的で傲慢なアーティストタイプでしたね。教授たちも、与えられた問題に対して論理的に最適な解決法を出されるより、うまくプレゼンされたデザインを好む傾向がありました。
 
ただ、ラッキーなことに在学中にものすごく高度なコンピュータビジュアリゼーションをやっていた会社でインターン生として働けることになったんです。その会社は家が数軒買えるぐらいのSGIのコンピュータを買って、それを使いこなすために僕が入っていたコンピュータクラブのほとんどのメンバーを雇ったんです。正気とは思えないですけど、信じられないぐらい楽しかったですね。それと、偶然にもその会社のCEOが建築家だったんですが、彼がデザインや設計を担当することは全くなくて、投資家と話をすることが仕事だったんです。それを見ていたおかげで、「建築は楽しいけれど、建築家として働くことは楽しくない」と気づいたんです。それに気づいて大学の教授に気に入られるための努力をやめた途端、建築の授業がすごく楽しくなってきて、結果的には意外にもかなり良い成績を取れました。
 
それからは、デザインとコードの分野を行ったり来たりしています。このやり方だと、どちらの分野でも突出した存在にはなれないんですが、忙しくしていられますから。
 
 
デザインとコードを行き来するっていうのは、私にはとてもデモシーナーっぽく聞こえますね
 
僕が見てきた限り、ほとんどの人がステレオタイプなものの考え方をするようなんですが、僕にはプログラミングの知識は多少あるけれど、僕が一緒に何かをしたいと思うコーダーほどプログラミングが得意ではないんです。
 
 
そうですか?私にはご謙遜なのかどうかが分かりませんが、、。では、お仕事の場面ではどうでしょう?コードとデザインの両方を担当されていますか?それとも、どちらか一方になるのでしょうか?
 
フリーランスとして働いていた頃の仕事は、プログラミングとデザインの割合がちょうど半々ぐらいでした。でもクライアントにとっては、僕はコーダーかデザイナーのどちらかなので、別の役割のことに口を出すと、結構嫌がられましたね。
 
両方の分野を少しずつ知っていることの利点とすれば、開発者と話をしやすいという点にあるかなと思います。時には素晴らしい結果を出せるように仕向けることもできるけど、時には振り回すこともあります(笑)
 
 
ははは、なるほど(笑) では、建築学科で学んだことが、プログラミングやデザインに役立つことはありますか?
 
プログラミングの役には立たなかったかもしれませんが、僕の現在の職業はプログラマーというよりユーザーインタラクションデザイナーなので、建築学科で学んだことが、問題をとことんまで考えて、うまくプレゼンするという点でしっかりとした土台になっているとは思います。考えてみれば、建物を設計することとGUIの設計には多くの類似性があるんです。入り口があって、階段があって、指示があって、ショートカットがあって、部屋と窓がある。「スクリーン・リアルエステート」って呼び方もあるぐらいですからね。
 
それと、もうひとつ大学で学んだことといえば、異常なほどコンセプトに集中するということです。コンセプトがなければデザインに関するすべての決断がランダムになってしまい、好みや感覚でプロジェクトが進むことになるんです。こういうやり方が向いている人もいますけど、コンセプトを確立しておくことで、チームやクライアントとの話し合いがとても楽になります。
 
 
なるほど、コンセプトが柱になるんですね。 さて、そろそろデモシーンの話に戻りましょう。Pixturさんのプロジェクトは、いつもどんな風にスタートするのでしょう?デモの制作プロセスを説明していただけますか?
 
NVscene 2015で、この話題に関するセミナーをやりました。基本的には、まずコンセプトやアイデアから始めて、そこから熟成させていく感じです。今後デモになりそうなものはWikiを作ってあって、最近はPinterestを使ってプロジェクト用の参考資料も集めるようにもなりました。それからリサーチシーンを作り始めて、ミュージシャンにアプローチしていくことになります。ここまで進むと自分が何をしたいのかが、かなりはっきり見えてくるんです。

 

 

 

このセミナーを拝見させていただいたのですが、デモ制作以外にも役立つ内容が多くてとても勉強になりました。Pixturさんは、この他にも「デモの作り方」シリーズ的なセミナーを過去にもやってらっしゃいますが、これだけ具体的で実用的なテクニックを公開するのには何か理由がありますか?秘密にしておいて、ごっそり賞を持ち去ることもできると思うのですが?
 
秘密にしておくというのは、長い目で見た場合には決して良いことではないと思います。それに、ほとんどのことが秘密でもなんでもないんです。ニュートンは「巨人の肩の上にのる」と表現していますが、そんな感じで情報はみんなどこかから借りてきたものなんですよ。セミナーで話をすると、物事をじっくりと考えて理解するのに役立ちます。説明ができれば、理解できているということですから。
 
 
あぁ、なるほど! では、作品のインスピレーションはどんなところから得ているのでしょう?
 
これは難しいですね。インスピレーションというか、「僕もやろう」っていう感じの時もあります。『Square』とかがそうですね。あとは、サントラを聞きながら自分でアイデアを思いつくこともあります。僕はよく母とクラシック音楽のコンサートに行くのですが、オーケストラの音楽を聞いていると、いつもぼんやりとした考えがいろいろ浮かぶんです。今はそこで頭の中に出てきたイメージを覚えておいて、メモするようにしています。
 
 
ちなみに、「僕もやろう」っていうのは、どういうことですか?
 
すでに考案されたものの安っぽいクローンを作るって感じですね。みんながこのレイマーチングを使ってるから僕も試しにやってみようかな、という意味の「僕もやろう」です。Madが作ったマンデルボックス・シェーダーを使って遊んでみたりね。僕の考えでは、これまでにリリースした作品における問題は、4KBのサイズ制限に合わせなければというこだわりが原因だった気がしますね。でも4KBではまともなサントラも使えないし、凝ったカメラアニメーションも使えない(少なくとも僕の場合は)。Squareのコンテンツだったら余裕で32KBに収まると思いますけど、そんなことどうでもいいですよね

 
 

 

わかりました、ありがとうございます。デモを作る際には、アイデアを出したり、コーディングをしたりといろんな段階があると思いますが、Pixturさんは、デモの制作プロセスでどの段階がいちばん好きですか?
 
あれこれ調べながら、何か面白そうなアイデアが浮かんだぞと感じられる数日間がすごく好きですね。そこに達するまでは地獄なので、この数日間は貴重なものなんです。そして、その数日間が過ぎると、今度はアイデアを洗練させていく作業になります(これも地獄です)。一度だけ、『Perfect Love[video]の制作をしている時に、あっとひらめくような感覚がありましたね。あの感覚にどうやったら自分を持っていけるのか、自分でも未だに分かりませんけどね。
 
 
作品はだいたいいつも頭のなかで想像した通りに仕上がっていますか?
 
そういうことは、滅多にないですね。『Passing』はほぼ想像していた形になりましたが、ほとんどの場合が想像とはかけ離れたものに仕上がります。それで満足できる時もあるし、ものすごくがっかりするときもあります。あと、自分のなかでの満足度とPouet(注:デモシーン最大のポータルサイト)で受け取るフィードバックは相反していることが多いですね。
 
 
では、Passingがご自身の作品でいちばん好きな作品になりますか?
 
さっきの僕の答えからその考えに行き着くのはどうかと思いますけど、でもまさにその通りですね!いまだにPassingは僕が思い付いたコンセプトのなかでも最高だと思っています。シンプルなエフェクトだけど見た目もなかなか良いし、無限のバリエーションに変換できますから。それに、カメラが動かず世界がスクロールで流れていくというアイデアもとても気に入っています。この終わりのないループが映像とMadの音楽に僕が感じ取った絶望感によくマッチしていると思います。繰り返しを使うことで生まれた、果てしなく続くデビット・リンチの悪夢みたいな感じです。

 
 

 

なるほど、悪夢ですか。ご説明ありがとうございます。
では、どんなプログラムを使ってデモを制作していますか?自作ツールを使っていますか?
 
僕は、何でも自分で管理していたいコントロールフリークなんです。パラメーターをいじって、キーフレームを少しずつ動かせないと嫌なんです。Stillでは「tooll.io」というプログラムを使っています。ツールを使わずに作業することになったら、コーダーがイライラして、おかしくなっちゃうでしょうね。
 
個人的には、他の人たちがデモを制作するのに役立つツールを作るのが夢です。実現までは長い道のりですが、『Coronoid [video]で初めてうまくいったんですよ。誰かが自分の作ったツールを使ってクリエイティブなことをしているのを見るのは、自分がクリエイティブなことをするよりずっと充実感を感じられます。
 
 
あなたのデモ作品が生まれる現場を見せていただけませんか?デモを作るときにテーマや雰囲気を決めたり、アイデアをメモ帳に書き留めていますか?
 

「オフィス風景」 photo by Pixtur

 

何かがコンセプトにつながりそうだと感じると、それを探ってみるようにしています。本当におおざっぱな絵コンテを描いてみることもあります。ここ数年で、コンセプトを書くのは少しだけ上手くなりましたね。過去には、コラボレーションができないかなと思ってSmashMercuryのメンバー用にコンセプトを2つ書いたことがあります。両方ともBreakpoint(注:ドイツで行われていたデモパーティー)から帰る列車の中で書きました。あと、Final Cutを使って、ラフなムードスケッチを編集することもあります。



『Intrinsic Gravitiy』用のスケッチ  photo by Pixtur

 

このスケッチの完成形はこちら:『Intrinsic Gravity

 

 

 
おおお、、この絵があれになるわけですね!では、どんなグループと作業するときでも、これだけは譲れない!というところや、自分なりのルールや目標を決めていますか?デモや音楽を作るとき、特に気をつけていることがあれば教えてください。
 
同じことを繰り返さないように努力しています。都市はだめ、レンズフレアはだめ、白いフラッシュはだめ、ダストパーティクルはだめって。Stillでは「禁止項目リスト」って冗談で言ってるんですけどね。難しいです。
 
 
作品を重ねるごとに禁止項目が増えますもんね(笑) では、そろそろ定番の質問にいきましょう。好きなデモ、心に残るデモ、影響を受けたデモ、、または人生を変えたデモ Pixturさんにとって特別なデモを教えてください。
 
当然ながら、Future Crewにはすごく大きな影響を受けましたが、その後は説明よりも多くのことを示唆する雰囲気を持ったデモに惹かれるようになりました。もう長い間、僕の好きなデモはSunflowerの『Energia[video]だったんですが、その後はMel Funktion Little Bitchardの『ASDF[video]、そしてFairlightの『Numb Res[video]です。Fairlightに対しては、いつも愛憎の絡みあった特別な感情がありますね。
 
 
ふふふ、そうですか(笑) Pixturさんはご自身で会社も経営されていると伺いました。毎日かなりお忙しいと思うのですが、その中でもデモという何の利益も出ないものに時間を割くのはなぜでしょう?何があなたをデモの制作に駆り立てるのですか?
 
人生の意味は、自分を幸せにするものを見つけることだと僕は考えています。幼少時代に受けた共産主義の教えに影響を受けているのかもしれませんけど、金銭などを集めることでは僕は幸せを感じられないんです。これまでいろいろと試してみましたけど、今のところ僕にとっては「友達と一緒に難易度の高いクリエイティブなプロジェクトに取り組むこと」がハッピーな気持ちになる最も効果的な方法ですね。
 
仕事も大概は楽しいのですが、自分では個人的なプロジェクトにより高いハードルを設定しています。僕の場合、クライアントを満足させるより自分自身を満足させるほうがはるかに難しいです。だからデモを作ることとデモ制作用のツールを設計することは、終わりのない問題に取り組むということなんです。
 
 
幸せになる方法ですか。自分自身に挑戦することを楽しんでる感じですね!でも、幸せにもなれるし、技術も上がるしで一石二鳥な気もしていいですね!(笑) では、Pixturさんにとって「良いデモ」、「良いツール」とはどんなものですか?
 
何が良いデモなのかは、僕には分かりません。僕が今好きなデモを挙げることはできるし、そのデモが好きな理由も説明できますが、1年後にはまったく違ったことを言っているかもしれませんからね。それに、僕の意見は他の人の意見と根本的に違っていることがあります。でも、デモシーンの良いところは、(そういったものを受け入れる)多様性があることですね。だから良いデモの定義を1つに絞ることは良くないことかもしれない。ただ、アドバイスが欲しいということであれば、以前に「大きめのパーティーで優勝するには、おっぱいとドラゴンと立方体が必要だ」という教えを聞いたことがあります。
 
ただし、良いデモツールということであれば、話はまったく別ですよ!ユーザーが使いやすいものにするなら、本当に難しいデザイン上の課題があります。プログラミング言語と同じぐらい柔軟性がありながら細かいレベルまで調節できるものにしなければならないし、コントロールを失うことなく創造性を引き出すものであるべきなんです。うまく設計できれば、数時間は良い流れの中にいられるはずです。僕たちのツールは、まだそこまで到達できていませんね。
 
 
本当に難しそうなタスクですね。 では、今後はどんなデモを作ってみたいと思いますか?
 
いつかは『Stargazer[video]や『Agenda Circling Forth[video]のようなメガデモを作ってみたいですが、それまでは自分が苦手とするトピックで小さめの作品を作り続けていきたいですね。パーティクルを使ったものがやりたいんですが、まずはソートのやり方を理解しないといけないので。それから、最終的には作ったデモをVR対応にできたらいいなと思います。
 
 
Stillのメガデモも、VR版の公開も楽しみにしていますね! それでは最後にデモシーナー、デモファンの方にメッセージをお願いします。
 
良いデモの作り方を知りたかったら、自分でデモを作って公開してみることですよ。
 

——————————————————————–
 
お忙しいところ、すべての質問に答えてくださったPixturさん、どうもありがとうございました!
 
StillLKCCの作品は、Pouetやグループのウェブサイトからチェックできます(グループ名をクリックしてね)。そして、インタビュー中にもでてきた「デモの作り方」シリーズのセミナーですが、とても実用的な内容になっているので、デモを作ってみようと思う方にオススメです。過去には、Revision 2013の「Concept, Camera, Composition and Color(コンセプト、カメラ、コンポジション、カラー)」、Revision 2014の「Rules of Thumb for (Slightly) Better Design(勝てるデザインのルール)」がYouTubeで公開されています(英語)。
 
それから、Pixturさんの作ったツール「tooll.io」を試してみたい場合は、現在こちらでベータ版が公開されているようですよ!
 
 
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

———————————————————————-

– そもそも“デモ”ってなに?パソコンの話?と思った方は、まずはこちらのMoleman2のドキュメンタリーをチェック。(この映画の監督、シラードさんのインタビューはこちらでどうぞ。)

  #1: 日本のデモシーナー、qさん(nonoil、gorakubuのコーダー)にインタビューは、こちら

  #2: デモシーナー、Gargajさん(Conspiracy、Ümlaüt Design)にインタビューは、こちら

  #3: デモシーナー、Preacherさん(Brainstorm、Traction)にインタビューは、こちら

  #4: デモシーナー、Zavieさん(Ctrl-Alt-Test)にインタビューは、こちら

  #5: デモシーナー、Smashさん(Fairlight)にインタビューは、こちら

  #6: デモシーナー、Gloomさん(Excess、Dead Roman)にインタビューは、こちら

  #7: 日本のデモシーナー、kiokuさん(System K)にインタビューは、こちら

  #8: デモシーナー、kbさん(Farbrausch)にインタビューは、こちら

  #9: デモシーナー、iqさん(RGBA)にインタビューは、こちら

#10: デモシーナー、Navisさん(Andromeda Software Development)にインタビューは、こちら

#11: デモシーナー、Pixturさん(Still, LKCC)にインタビューは、こちら

#12: デモシーナー、Crypticさん(Approximate)にインタビューは、こちら

#13: 日本のデモシーナー、0x4015(よっしんさん)にインタビューは、こちら

#14: デモシーナー、Flopine(Cookie Collective)にインタビューは、こちら

#15:デモシーナー、nobyさん(Epoch、Prismbeings)にインタビューはこちら

 

私がデモシーンに興味を持った理由、インタビューを始めた理由は、こちらの記事にまとめてあります。また、デモやデモシーンに関連する投稿はこちらからどうぞ。

 

Add a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *