デモシーナー、Crypticさん(Approximate)にインタビュー
2016/01/15
「デモシーナーにインタビュー」へようこそ。
今回は、大作『Gaia Machina』でも知られるスウェーデンのデモグループApproximate(アプロクシメイト)のコーダー、Cryptic(クリプティック)さんをゲストにお迎えしました。
昨年の春にドイツで行われたRevisionのデモパーティーでは、これまた壮大な64k作品をリリースしていましたが、インタビューでは、この作品の誕生秘話や、64kにかける思い、そして締め切り前のストレスへの対処法などをお伺いしました。また、最後まで読んで欲しいのでチラリと言うと(笑)、後半には日本のデモシーナーにはとりわけ嬉しいお知らせも入っています!
そんなわけで、最後までどうぞお楽しみください!
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Jonas Fredriksson(ヨナス・フレデリクソン)といいます。デモシーンではCrypticという名前で、Approximateというデモグループで活動しています。Approximateは、今は僕とミュージシャンのVeloの2人のグループで、僕はコード、グラフィックス、デザインを主に担当しています。
昨年の春にRevisionでリリースされていた『Small matters of the heart』をストリーミングで見ていたのですが、美しい作品でしたね!(現在もビデオで視聴可能) あの作品はどのようにして生まれたのでしょうか?
2014年の頭に『Gaia Machina』のファイナルバージョンを完成させた後、特に何も決めずに、空いた時間に技術面の研究をしていたんです。でも、実際に作品を作り始めたのはConspiracyのBoyCと「Revisionで真剣に64k対決をやろう」という話をした後だったと思います。ここ数年、64kデモはPCデモや4kのカテゴリに遅れをとっているので(MercuryやBrain Controlなどのデモグループが作る素晴らしい64kの作品はありますけどね)、64kにもっと興味を持ってもらいたいと思ったんですよ。それで、Revision 2015で何かリリースしようということになりました。
制作はスムーズに進みましたか?
最終的には、これが良い結果と悪い結果の両方を生み出したんですけどね。良かったのは、何かを完成させるための締め切りができたことですね。それに、Revisionであんなに素晴らしい64kコンポを見られたのはすごく良かったです。でも、技術的な問題を修正したり、自分たちが納得のいくデザインのレベルに持っていくには、あと1ヵ月ぐらい(仕事とか私生活とか諸々あるので)必要だったと思います。
では、あれとは違うものを作るプランがあったのですか?
グラフィックスとうまくマッチさせたかったので、もっと構想を軸にして作りたいというアイデアがあったんですが、結局はとてつもなく短期間にアニメーションやストーリーをまとめなければいけない状態になってしまって。だから、いくつかバグがあるんです(ほとんどは入れたいと思ったシェーダーやグラフィックスを64kに収められなかった僕の責任なんですけど、、)。このバグのせいで、グラフィックスのクオリティだけじゃなくて、ストーリーを改良するのに必要な時間にも大きな影響が出てしまったんですよ。
だから、あんなに素晴らしいコンポでリリースできたことを嬉しく思う反面、Gaia Machinaのパーティーバージョンのほうが、技術面でもストーリー面でもデザイン面でも、もっと安定してたなぁと考えてしまうんですよね。
なるほど。ところで、『Gaia Machina』の場合、2009年に作り始めて、最初にリリースしたのは2012年。そしてファイナルバージョンは2014年にリリースされています*。ほぼ5年にわたる製作期間で、この間に他の作品はリリースしていませんよね。かなり長い時間だと思うのですが、「あぁー!他のものが作りたい!」と思うことはなかったのですか?どうしてこれほど長い間、モチベーションを維持することができたのでしょう?
本当に楽しんでやっている趣味だから、というのが大きな理由でしょうね(笑) でも、趣味ってことは他にもやらなきゃならないことがあるってことなので、自分でやりたいと思っているほどはデモコーディングのための時間を確保できてはいないです。それに、もちろん他のことがしたくなる時もありますよ。そしたら、そっちをやってから、またしばらくしてデモコーディングに戻るんです。
だから、2009年から2012年の間、ずっとGaia Machinaのコーディングをやってたわけじゃなくて、休み休み続けてたってことです。それと、2012年のパーティーバージョンのリリースと2014年のファイナルバージョンのリリースの間があいているのは、グループのメンバーのMeatyが2012年にこの世を去ってしまうという、とても悲しい出来事があったことも大きな理由です。
Meatyさんの名前は、ファイナルバージョンの冒頭にクレジットされていますね。とても残念に思います、、、。
Approximateのデモは、ストーリーを大事にしているのではないかと感じているのですが、作品を作り始める前に、きっちりとストーリーを用意してからコーディングを始めるのでしょうか?アイデアをメモしたり、スケッチしたりしていますか?
これまではずっと、主に技術を重視した制作プロセスをとってきました。グラフィックスを作りながらストーリーが見えてきて、そこに少しずつ肉付けしていくという感じです。頭に浮かんだことをメモしたりスケッチしたりもしますけど、きっちりやってるわけではなくて、むしろ自分で作った64kツールで遊びながらやる感じです(笑)
Gaia Machinaの場合、ストーリーの流れはとてもシンプルですっきりとしたものだったので、そこからエフェクトや雰囲気を作り出しました。Small matters of the heartの場合は、まだストーリーがよく練られていない段階でリリースしなければならなかったので、ストーリーばかりが目立った作品になってしまったのが、かなり腹立たしいですね。
そうなんですか! では、Approximateの一般的な制作プロセスを教えてください。音楽やタイトルを先に準備しておきますか?
いつも技術面からスタートしてきましたね。僕が64kのコードとグラフィックスを作り始めて、Meatyがシンセのコードに取り掛かります。音楽とグラフィックスの間でやり取りを繰り返す、反復型のプロセスを採り入れてみようって話にいつもなるんですけど、計画しても、今まで実現できたことはないんですよね。Gaia Machinaの場合は音楽がパーティー会場で完成したので、締め切りギリギリまでグラフィックスを音楽に合わせる作業に追われました。
Small matters of the heartの時は、Veloがパーティーの数週間前に音楽のテストバージョンを送ってくれたので少し時間はあったのですが、音楽と合わせる前に、僕のほうがコードとストーリーを仕上げるのに苦労していまして、、。それと、タイトルはもうずっと、締め切りの2、3時間前に決まるパターンですね。
作品へのインスピレーションはどんなところから受けることが多いのでしょう?
自転車に乗っている時や自然の中を散歩している時、どこかへの移動中にアイデアが浮かぶことがほとんどですね。新しい考え方や感じ方が生まれるのは、コンピュータから離れて、ただ頭をぼーっとさせている時なんです。
では、デモを作る時に何か決めていることはありますか?音楽を聞くとか、ビールを飲むとか、、、
実際にコーディングやデザインの作業をする時は、いつも音楽を聞いています。というか、音楽が必要なんです。僕の場合、「夜の遅い時間に、ひとりで、すごく良い音楽を聞きながら」という状態が、コーディングには最適だと思いますね。邪魔される心配もないし、「ゾーン」に入った状態で作業できます。ビールは、新しいアイデアを考える時、ブレインストーミングをする時、それからデモパーティーの締め切り前のストレスに対処するために使います(笑)
はは、ひとあし早くパーティーを始めるわけですね(笑) では、どんなプログラムを使ってデモを作っていますか?自作ツールは使っていますか?
64kの場合は、C++とOpenGLをベースにした自作のツールを使っています。これだと、テクスチャ、メッシュ、シーン、ライティング、シェーダーなんかのコンテンツを簡単に編集できて、サイズに収まるようにデータの最適化もできるんです。音楽には、MeatyのMapproxシンセを使っています。VSTのインターフェースがついているので、大概はRenoiseと組み合わせて使っています。
Approximateは、これまでに数々の64k作品をリリースしていますが、64kにこだわる理由はなんですか?
僕にとって64kは、サイズ制限とデザインの自由度のバランスがとれた最高の形なんです。(制約をあまり気にすることなく)ツールを使って自由にデザインできるし、4kの作品にありがちな無機的な数学っぽさを出さないようにするのも簡単です。それと、ツール自体を作るのが楽しいんです。特に64kのツール作りは面白いですよ。
64k demo “ephemera” by Approximate (2009)
おお、ツール作りの段階から64kを愛しているわけですね、、!(笑) ところで、そもそも、みたいな話になりますが、プログラミングの世界にはどのようにして入ったのですか?
僕はいつもグラフィックスとデザインに興味があって、他の人が作ったゲームで遊ぶよりも、自分でゲームを作ったほうが楽しいとかなり早い段階で気がついていました。それで、「ゲームのプログラミングの中でいちばん楽しいのはグラフィックスのプログラミングだ」と分かってからは、ずっとそれを続けてきたんです。
では、デモシーンとはどのように出会ったのでしょう?
僕がデモシーンと出会ったのは、90年代の半ばです。初めて見たのはクラックトロ(注:ゲームのイントロ画面を改変したもの。デモの前身であり、デモシーンを生み出すきっかけになったもの)で、それからモジュールやFast Tracker 2のことを知り、デモシーナーが書いたプログラミングのチュートリアルを読むようになりました。それと、コンピュータ雑誌でもデモシーンやデモパーティーの記事を読んでいましたね。特にチェックしていたのは「Tekno」という雑誌(注:ノルウェーのコンピュータ雑誌)です。初めて参加したデモパーティーは、地元で開催されていたCompusphere 1997です。
ではそろそろ定番の質問にいきましょう。好きなデモ、心に残るデモ、影響を受けたデモ、、または人生を変えたデモ… あなたにとって特別なデモを教えてください。
個人的にいちばん大きな影響を受けたと思う作品は、たぶんFarbrauschの『fr-08: .the .product』 [video] だと思います。これがきっかけで64kに興味を持つようになりましたから。最初に見た時、これはすごいぞと思って、あとでメイキングの記事を読んだら、自分でも64kの作品が作ってみたいって気持ちが抑えられなくなっちゃったんですよね。64kで他にインスピレーションを受けた作品だと、Conspiracyの『Project Genesis』 [video]、Rgbaの『Paradise』 [video]、ANDの『Zoom 3』 [video]、Fairlightの『Panic Room』 [video]とかですね。他にもいろいろありますけど。
PCデモだと、Andromeda Software Developmentの作品の感じが大好きですね。『Lifeforce』 [video]とか、エフェクトが切れ目なくうまく調和しているのが好きなんです。それと、Gaia Machinaを作る時に大きなヒントをもらったのは、Pulseの『Sunflower』 [video]です。あのデモの持つ雰囲気がすごく好きなんですよね。
クラックトロの時代からデモシーンをご存知ということですが、考えてみるとかなり長い間デモシーンと関わりを持ってらっしゃいますよね。Crypticさんにとって、デモシーンとは何ですか?このカルチャーの魅力は何でしょう?
クラックトロの時代からデモシーンをご存知ということですが、考えてみるとかなり長い間デモシーンと関わりを持ってらっしゃいますよね。Crypticさんにとって、デモシーンとは何ですか?このカルチャーの魅力は何でしょう?
自分にいちばんしっくりくる「テクノロジーとアートの融合」のかたちです。両方に興味があったので、僕にはぴったりのサブカルチャーなんです。それに、デモシーンでは才能あるたくさんの人達と知り合えますし、常に前に向かって進化を続けている気分になれます。
今後作ってみたいタイプのデモはありますか?また、デモシーンで達成したい目標や夢があればお聞きしたいです。
音楽とぴたりと合った、もう少し抽象的な作品を作ってみたいですね。illogictreeの『Artifacts』 [video]という作品が大好きなので、ああいうのをやってみたいです。それ以外では、その時に興味を持ったものをやっていくんじゃないでしょうかね。
今はサウンドや音楽のプログラミングのことを学んでいて、デモシーンのこの分野について理解を深められたらいいなと思っています。たぶん数学的な部分しか理解できないと思いますけど、知らないことを学ぶのは楽しいですからね。それに、シンセやサウンドの実験ってかたちで、このプロセスから何か出てくればVeloにチャレンジしてもらうこともできますから。Tokyo Demo Fest 2016に行く時には、何か持っていけるかもしれないですね。まだ僕は日本に行ったことがないので、すごく楽しみにしているんです。
日本を訪れる予定があると聞けて嬉しいです!それでは最後にデモシーナー、デモファンの方にメッセージをお願いします。
自分がすごく楽しめるものを作り続けて、他のシーナーと交流してください。デモシーンは、ミュージシャン、グラフィックアーティスト、コーダーがアイデアを交換したり、それぞれの視点や制作プロセスを理解し合うのに絶好の場所です。僕も、Tokyo Demo FestやRevisionでたくさんのデモシーナーの皆さんに会えるのを楽しみにしています。
それから、Veloや僕の友達がオーガナイズしているデモパーティー、Edisonもチェックしてみてください。大体いつも7月あたりにスウェーデンのストックホルムでやっています。規模は小さめですが、すごく感じの良いデモパーティーですよ。
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本当にお忙しい時期だったのに、快くインタビューを受けていただきありがとうございました!
Approximateの作品は、グループのウェブサイトやPouetのページで確認ができます。Facebookをお使いの方は、グループのFBページもあるようなので、いいねっ!とクリックすると最新ニュースを受け取れるようです。(けっこうFBやTwitterにアカウント持ってるグループがいるようです)
また、過去にはディスクマガジンの「Hugi」で、CrypticさんとミュージシャンのVeloさんが『Gaia Machina』のメイキングも公開しています。制作からリリースまで時系列で書かれていて、あの作品のファンならずとも裏話が聞けて面白いですよ。
それと、インタビュー中に何度も登場したRevision 2015の64kコンポは、会場からストリーミングで公開されたものが、こちらで見ることができます。ちなみに、、このときのCompo Studioのビデオでも話していましたが、この「春の64kまつり」は(笑)、Mercury、Conspiracy、そしてApproximateの64kグループが、「おい作品持ってこいよ、勝負しようぜー」と事前に勝負をふっかけ合っていたそう。表彰式で、3グループのメンバーが嬉しそうに抱き合って泣いていた姿が印象的です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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– そもそも“デモ”ってなに?パソコンの話?と思った方は、まずはこちらのMoleman2のドキュメンタリーを見るべし。(この映画の監督、シラードさんのインタビューはこちらでどうぞ。)
#1: 日本のデモシーナー、qさん(nonoil、gorakubuのコーダー)にインタビューは、こちら。
#2: デモシーナー、Gargajさん(Conspiracy、Ümlaüt Design)にインタビューは、こちら。
#3: デモシーナー、Preacherさん(Brainstorm、Traction)にインタビューは、こちら。
#6: デモシーナー、Gloomさん(Excess、Dead Roman)にインタビューは、こちら。
#7: 日本のデモシーナー、kiokuさん(System K)にインタビューは、こちら。
#8: デモシーナー、kbさん(Farbrausch)にインタビューは、こちら。
#9: デモシーナー、iqさん(RGBA)にインタビューは、こちら。
#10: デモシーナー、Navisさん(Andromeda Software Development)にインタビューは、こちら。
#11: デモシーナー、Pixturさん(Still, LKCC)にインタビューは、こちら。
– その他、「デモ」と「デモシーン」に関連する投稿はこちら。