先月参加させていただいた「Tokyo Demo Fest」ですが、このブログに“ムーミンのキャンディが~”、“ピザを食べそこねて云々”なんてデモとは関係ないことを書いていたら、Gargaj(ガーガイ)さんからコメントをいただきました。Gargajさんといえば、ハンガリーを代表するデモグループ”Conspiracy”のメンバーであり、デモシーンでさまざまな活躍をされている方でもあります。(Conspiracyは、”Chaos Theory”という作品が特に有名。息継ぎができないほど密度の高い映像が約4分半続きますが、ファイルの大きさが64キロバイトしかない恐ろしさ。)
そして何より、「Moleman 2」でデモシーン/パーティーについて熱く語っていたのがこの人!パーティーに参加してる間もGargajの言葉が何度もよみがえってきていたので、「(デモシーンの世界へ)ようこそ」とコメントをいただいたときは、何だかとても不思議な気持ちになりました。・・・まぁ、“ようこそ”だけ聞いて帰すわけにはいかん!ということで、メールインタビューをお願いしました。
初めてデモを作った時のこと、デモパーティーを主催したときの裏話、Conspiracyの制作プロセス、デモや音楽へのインスピレーションをどんなところから得ているのか、Gargajにとってのデモシーンとは、、などなど、創造性のつまった、読み応えのある回答をいただきました。少々長いので、お手元にお茶なぞご用意のうえ、ごゆっくりとお楽しみいただければ幸いです。
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コーダー、ミュージシャン、パーティーのオーガナイザーなどなど、幅広くデモシーンで活躍をされていますが、あなたはいったい何者なのでしょう?簡単に自己紹介をお願いできますか。
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Photo: gargaj.umlaut.hu |
僕は東欧の比較的明るい方の国で、音楽を作ったりコードを書いたりしてる人間。ただ、幸運にも適切な場所に適切なタイミングで居合わせ、そこで適切な人たちに出会えたおかげで、アンダーグラウンドのコンピュータアートが築いてきた素晴らしい歴史を目撃するチャンスに恵まれたんだ。
つまり、あなたのそばにはいつでもコンピュータがあったということですか?デモシーンとはどのように出会ったのでしょう?
僕が生まれたのは最初の家庭用コンピュータが登場した時期だったから、コンピュータと僕は似たような成長過程をたどってきたんじゃないかな。最初は自分が何者で、どこに向かっているのか分からなかったのが、時間とともにゆっくりと具体化してきたというか。“初期のコンピュータの純真さに子どもの持つ純真さが出会った”っていうのが、コンピュータで初めて何かを目にした時のイメージだね。だから、“なぜ画面の上で物が動くのか”ってところに興味を持ったのは、ごく自然なことだと思う。
デモの作品に頻繁に出くわすようになったのは、それから僕もコンピュータも少し成長したDOSの時代。幸い、ハンガリーのデモシーンで活躍してた人達が積極的にシーンを支援してたから、深夜のラジオ番組や雑誌の記事で「デモ」と「デモシーン」の関係について学ぶチャンスに恵まれたんだ。
初めてデモを見たのはいつですか?デモを見て、すぐにパーティーに参加しようと思ったのでしょうか?
クラックトロ(注:“デモの前身”とも言えるもの)を初めて見たのは80年代半ばで、ちゃんとしたPCのデモを見たのは90年代前半。デモシーンに出会ったのは90年代の後半で、最初にパーティーに参加したのは2000年だよ。
その後に自分でデモを作るようになったのですか?最初にデモを作ったときは、どんな感じでしたか?
パーティーに初めて参加したタイミングと比べると、デモを作り始めた時期はわりと遅かったね。(注: 彼が初めてデモを作ったのは、最初のパーティーに参加した2年後の2002年のこと) ただ、やるからにはその時期のデモの水準を満たしたものを作ろうって決心してたんだ。それで、(デモ作りのための)エンジンの制作に1年ぐらいかけた。他のグループの作品みたいに芸術的に優れたものになるとは思えなかったから、“最高にやかましくて、イライラするようなデモを作ろう”って、賭けに出てみたんだよ。実際、そういうデモに仕上がったんだ。
(初めてデモを)作るっていう作業は、不思議な体験だった。“それぞれのパーツが完璧に収まるように”って、自分が機械になったような気持ちで作ってたから、ほとんど覚えてないんだ。ただ普通じゃないというか、楽しい思い出として残っているのは、Procyonを部屋に閉じ込めたことかな。彼が担当してたテクスチャマッピングのコードが進んでなくて、バグがすべて修正し終わるまで部屋から出さなかったんだ。
振り返ってみれば、あの当時でさえデモ作りを“簡単だ”とか“複雑だ”とか考えたことはなかったな。「Mindcandy 2」で、EnigmaのAzatoth/Phenomenaが「楽しんでるから、(エフェクトのコードを書くのは)複雑なことじゃない」ってコメントしてたのを思い出すんだけど、つまり、きちんとしたモチベーションさえあれば、自分の持っている力以上のものが出せるってことなんじゃないかな。
実際のデモシーンを理解するには何年もかかったよ。(デモパーティーは)親睦会であり、定期的に開催されるイベントであり、そこが重要なポイントなんだってこととかね。
僕が7、8歳の頃、地元の大学でやってた科学・テクノロジー関連の展示会を見に行ったことがあるんだけど、デモパーティーっていうのは、そういう展示会に作品の公開がついたものだと最初は思ってたんだ。あんなにも大勢の人がいて、全員に同じ共通点があるとも思えなかったし。でも15、16歳の時にRPGの集まりに行って、その考えが変わった。その後、デモシーンについて詳しく知るようになってから、少しずつどんなものなのか想像できるようになったんだ。
初めて参加したデモパーティーはどちらでしたか?
FLaG 2000かな。
それで、、実際に参加したパーティーは想像通りでしたか?パーティーから帰ってきて、ショック状態になったりしたのでしょうか?
当然ながら、ディスクマガジンの記事からは想像できなかったことが起きた。パーティーが進むにつれて盛り上がってくる雰囲気とか、どんどんコンポのハードルが高くなっていく感じとか…、あれをうまく説明できる人はいないんじゃないかな。(映画の中で、僕も説明できてないんだよね。)あれは参加者ひとりひとりの解釈によると思うし、皆それぞれが違ったように体験しているわけだから、1人の人間の意見やテーマにまとめることは難しいと思うよ。
それで自分はどうだったのかというと、ショックってほどじゃなかったけど、帰りの電車の中で、“この週末に何が起きたのか”とか、“次は何をすればいいのか” っていうのを考えてた。それと、人生で初めて自分の居場所を見つけたっていう気分だった。現実から抜けだして、自由になれる場所を見つけた気がしたんだよ。
その後、いろんなパーティーに参加するようになったのですよね。デモパーティーで起きた印象深い話などあったら聞かせてもらえませんか?
忘れられない話だったら、本が1冊書けるぐらいあるんじゃないかな。気まずかったことから大笑いしたこと、物語みたいに壮大なストーリーから心が痛むような話まであるね。これから先もパーティーに参加するたびに増えていくんだと思うよ。
参加したイベントは、すべて同じように“いい思い出”として扱うようにしてるんだ。だって、みんな特別な出来事だからね。それに、パーティーの開催地に近づいて来て、もうすぐ久しぶりに友達に会えるんだな!って思うと、急にアドレナリンがわき出すような瞬間を今でも毎回感じてるんだ。
ここで話の一例を紹介したりはしないけど(この手の話は人から直接聞くのがベストだと思うから)、好きな思い出のほとんどが自分に起きたことじゃなくて、他の人たちが意外だけどすごい方法で交流してるのを見たことに関連してるかな。
今はパーティーに参加するだけではなく、「Function」(ハンガリー)などのデモパーティーも開催していますね。自分でもデモパーティーを開催しようと思ったのはなぜですか?
デモシーンに参加しようって決めたとき、連れ込んだ友達に、「コード、音楽、グラフィック、何でも必要なことはやる」って言ったんだ。でも、パーティーのオーガナイザーだけは考えたこともなかった。他の人やグループを管理できるような社会的スキルとか、対人関係のスキルは自分にはないからね。ましてや他のオーガナイザーとか参加者、スポンサーまで管理するなんて到底無理だと思ってたんだ。
でもそれから5年後ぐらいに、主催者をやめたいって人からFunctionを引き継ぐ決心を渋々したんだ。それで気がついたら、いつもこれだけは避けたいと思ってた役が自分に回ってきてしまった…。だから、やりたいから主催者になったんじゃなくて、“やらざるを得なかったから”っていうのが質問への答えだね。まぁFunctionの重要性は感じてるし、毎年規模が大きくなってるのも分かるから、このパーティーがなくなった時の喪失感とか地元のデモシーンの苦悩を考えると不安だったんだろうね。パーティーが年を重ねるごとにゆっくりと成長しているのを見ると、(すごく疲れるけど)良い決断をしたんじゃないかって思ってるよ。
では現在とこれまでの主催者のおかげで、Functionはめでたく10周年を迎えたわけですね。このパーティーに参加したり、開催したりする中で、ハンガリーのデモシーンの中に違いを感じることはありますか?
Functionから感じると言うよりは、Functionと手伝いをしてるノルウェーのデモパーティーとの間で違いを感じることがあるね。2つの国で参加に対する姿勢が驚くほど違うんだ。どこのデモパーティーでも、みんなできる限り早く会場に到着しようと思うのに、ハンガリーだと土曜の午後になるまでほとんど人がいない。それでコンポの時間になると突然会場がいっぱいになって、その後すぐに空っぽになる。だから、パーティーの盛り上がりを判断するのは難しいんだよ。
あらら。では、デモシーン全体ではどうでしょう。何か変化を感じていますか?
デモの作品数が最近減ってきたとか、どのプラットフォームに人気がシフトしてるとかっていう意見やデータはいくつかあるね。たぶん頭の良い人だったら、そこから何か予測できるんじゃないかな。僕に言えるのは、デモ作品を作ったりとか、デモシーンに関わることへの敷居が低くなったってことかな。今はインディーズの開発者向け教材とかデモのコードがそこら中に転がってるし、あまり予算をかけないで旅行できるようになったから、同じ大陸内だったらどんなパーティーにでも簡単に参加できる。ただ、参加者は増える一方なのにデモの数は増えてこないっていうのは、現代の消費者ベースの姿勢の表れなんだろうね。デモシーンもいつかは軌道修正して、見ることよりも作ることのほうに意識が変わっていけばいいなと思ってるよ。
先ほど、ハンガリーのパーティーで見られる特色について紹介していただきましたが、ハンガリーやノルウェーの他にも、2008年にはアメリカでNVIDIAのデモパーティーを主催していましたよね。国が違えば、やはりパーティーの雰囲気も違うものなのでしょうか?それとも、世界共通の雰囲気だったり、目的みたいなものはあるのでしょうか?
去年のFunctionは、パーティーの準備がいろいろと遅れてて心配だったんだ。でも、何とかオーディオとビデオを設定して、スクリーンにスライドが写ってDemovibesのミックスが流れてきた時のことは忘れられないよ。みんなで顔を見合わせて「よし、パーティーの始まりだな」って言ったんだ。
デモシーンの伝統の中には、それぞれの国の文化の違いで予想外の方向に向かってるものもあるけど、“目標とするデモパーティーの姿”っていうことでは共通点があるんじゃないかな。つまり、パーティーの最初の目的を形作っているのがデモシーンの本質で、パーティーを楽しく、思い出深いものにしているのが地域の慣習や伝統ってことだね。
NVScene / NVISIONに関して言うと、あれは大規模な“無菌状態”のコンピュータ展示会だったから、扱いが難しかった。デモシーンの連中はテーブルの下で眠ったり、酒を飲んだり、感じ悪いことを叫んだりとかっていう“ヨゴレ”なものに慣れてるからね。この2つを組み合わせるのにNVIDIAは相当な努力を要したんだけど、デモシーナーと同じくらい気まぐれなオーディエンスをもてなした、ってことに関して言えば、素晴らしい仕事をしてくれたと思うよ。“デモパーティーとはこうあるべき” っていうパーティーの見本のようだったと記憶に残ってる。
さて、デモの制作に話を戻しましょう。Moleman 2の中では、 “当時の64Kのトップに挑む目的でConspiracyを結成した”とBoyCさんがコメントしていますね。グループを結成したときのことを、もう少し詳しく説明してもらえますか?
Conspiracyを結成した時のことを思い出すと、なんて自分はラッキーだったんだろうっていつも思うんだ。自分たちがやってることを次のレベルに押し上げようって考えた人たちと、あのタイミングで一緒にいられたことがね。本当に、ある日何となく決意したところから始まったんだ。“何かあっと言わせるようなものを作るグループを結成しようぜ”って感じで始まって、その目標を達成できるまで投げ出さなかった。まぁ、今考えるとありがちな逆転ストーリーに聞こえるよね。自分の身に起きたことじゃなかったら、僕だって信じなかったと思うよ。
Conspiracyのデビュー作品 「Project Genesis」 (2013)
グループの他のメンバーとは、どのように作業を進めていますか?みんなで集まったりするのでしょうか?それと、音楽やタイトルは先に決めておくものなんですか?
作業の方法はいたって普通だよ。最初に中心となるアイデアを簡単な文(「技術てんこ盛りの64K」、「ダークな感じ」、「惑星についてのデモ」とか)で決めてから、作品の全体的な方向性となるようなアイデア(大体いつもコンセプトアート)を出していくんだ。そしたら各自が持ち帰って、音楽の制作やエンジンの開発・改良に取り掛かる。その後、Zoomが非物質化する作業を数週間やって作品は完成。前にZoomが、「良いタイトルだと完成形の全体像や感覚も上手くつかめる」って言ったから、タイトルは早い段階で決めるようにしてるよ。
Conspiracyでは、時間を追うごとに自分達それぞれの得意分野が明確になってきたんだ。時々は自分の担当じゃない部分に提案したりすることもあるけど、大概は自分の持ち場を守ってるね。それが一番効率的な方法だと思うし。
どんなグループと作業するときでも、これだけは譲れない!というものや、自分なりにやろうと決めているルールや目標はありますか?デモを作るとき、特に気をつけていることがあれば教えてください。
それは状況によるね。やりたいことがはっきり見えてるなって感じる人と作る時には、その人のアイデアの範囲内でベストを尽くして、作品としての基準を満たせるよう努力してる。自分のアイデアを提案して元のコンセプトにはなかった方向に持っていくのも好きだけど、大体は自分に期待されてることとか、ミーティングで決めた内容を忠実に実行してるね。ただ、音楽に関してはプロセスのかなり早い段階での話になるから、自分で前に特に目的もなく作った曲を持っていって、相手が気にいるかどうか聞いてもらうこともあるよ。
自分が主導権を握ってる時には、自分のやりたいようにやってるね。でも、僕の場合、何をやりたいかがその日の時間帯とか朝食に何を食べたかとかで簡単に変わるから、誰かと共同作業するのは向いてないかな。特に今はスケールの大きいデモに興味があるしね(もっとデモシーンに必要なものだと思うんだ)。
すごく気にしてるわけじゃないけど、デモの中できっちり押さえておきたい部分があるとすれば、その作品の“本質”だね。作品を見た人が、時間をムダにしたとか、騙されたって感じさせないようにね。あとはその場の要求に応じてかな。技術にウエイトを置いたアイデアだったら、技術的なことに気をつけるとか。でも、技術を主役にした作品じゃなかったら、従来のデモのように「このエフェクトができる」って主張をするためだけにエフェクトを作品に詰め込んだりはしないな。
“従来のデモ”っていうのは、エフェクトが順番に出てくるような90年代初期~中期のデモみたいなってことですか?
ある意味ではそうだね。ただ今もそういうのがコンセプトの“コーダーデモ”はあるよ。
あなたの作業環境はどんな感じですか?ちらっと見せてもらえませんか?
僕の作業場所は見ても特に面白い場所じゃないと思うよ。デスクの上にコンピュータがあるだけだから(笑)
不思議なかたちのキーボードを使ってたりするんじゃないかと・・・(笑)
いや、僕のはすごく地味で、コード中心のキーボードだよ。(ハンガリーで英語配列のキーボードを探すのは本当に大変なんだ。)最近になって、職場のキーボードにある再生/一時停止/音量ボタンにも愛着がわいてきたけどね。普段はキーボードでもマウスでも、“必要最小限”っていう美学が好きなんだ。だから時間をかけて選んだりとかはほとんどなくて、自分の中にある最低基準をクリアしてるいちばん安いやつを買ってるよ。追加の機能がある場合は活用してる気がするけど、なければないで全く構わないんだ。
カフェとか外でコードを書くこともあるんですか?
ハイエンドの携帯ハードウェアは持ってないから、外で音楽を作ったり、コードを書いたりすることはめったにないね。(旅行用のネットブックは持ってるけどね。)ただ、よくみんなで集まって作業してた時期はあったよ。どっちにしろ、ラップトップでコードを書くのはそんなに好きじゃないんだ。画面もキーボードも大きいほうが楽しいし。でもそれしか使えないってことになったら、最大限に活用する方法を考えるよ。
作業中に音楽は聞きますか?それとも静かな環境が必要ですか?
僕の作業環境の中では、音楽は自然な存在だね。音楽のノリに自分の頭を合わせるほうが上手く進むんだよ。歌詞があると気が散ることがあるから、インストの曲のほうが好きかな。たまに静かな環境で作業したりもするけど、その時の気分によるかな。
(残念ながら私には理解できない部分ですが、デモを作ってる方のためにお願いします…)どんなプログラムを使ってデモを制作していますか?自作のデモツールを使ったりしていますか?
これも状況によって違うんだ。ここ何年かで、どのツールがどの用途に最適かっていうのは大体分かってきたと思ってる。でも、どんな方法であっても“作業時間を最短にしたい”っていう共通の目標はあるから、できる限り既存のソフトウェアを使って制作するのが好きだね。そうしないと、その作品のためのクリエイティブな作業じゃなくて、エンジンの作り変えとか、定型コードのコピーなんかに時間をムダにする気がするんだ。
エフェクトに関しては、アイデアをできる限り早くコードに落とし込めるように自分でツールのプロトタイプを作ることが多いかな。メインのエフェクトが動くようになったら、エンジンに収めてみるんだ。プロセスを簡単にしてくれるデモツール作りはすごく好きなんだけど、欲しい機能と要らない機能を理解するのには何年もかかった。サイズに関連した理由がない限り、コンテンツを生成してくれるデモツールはやりすぎだと思うんだ。何をやっても、その分野の市販ツールには勝てないからね。編集や構成なんかは、WYSIWYG形式でやるのがベストだと思う。何かを試して結果を見るまでの時間を減らせるし、微調整できる範囲も広がる。
何も見ずにコードを書いて完璧に仕上げられる、“ハードコーディング派”にはすごく憧れるけど、自分はそういう人間じゃないし、シーンのかなりの人間がそういうタイプではないと思うよ。
デモ作品へのインスピレーションはどこから得ているのでしょう?
最初の頃は、明らかに他のデモから影響を受けてたね。でも、だんだんコンピュータアートとは別の分野とか現代の映画製作にも興味を持つようになってきたから、そこで聞いた思考プロセスをデモ制作の作業に取り入れるようになったんだ。
最終的になぜあの方法であんなことをやったのかっていうことを詳しく説明してくれる映画監督や撮影監督、VFXアーティストなんかにはいつも強く魅かれるんだ。特に映画のすごく重要なシーンとか、有名なシーンやショットの説明が好きだな。そういうのを聞くと、“考えを映像に変換する方法”への理解が深まるんだよ。
もしかして、DVDの特典についてる監督のオーディオコメンタリーとかも好きだったりします?
イエスでもあり、ノーでもあるかな。もともとオーディオコメンタリーっていうのは、会話を制限するっていう残念な問題を抱えたものだよ。1つのシーンについてもっと話したくても、映画はどんどん先に進むから、別の話題に移らなきゃならない。結局、「誰かの表現がどうとか~」っていうコメントしか聞けないことがほとんどだよ。それよりは、ドキュメンタリーとか短編映画のほうが好きだな。制作に関わった主要な人物が何人も登場するし、自分たちのペースで会話が進んでいく。それに、スタントとかの技術的な背景が分かる映像なんかも見れたりするしね。
音楽に関してはどうですか?何にインスパイアされることが多いのでしょう?
音楽は、サイケデリック・ミニマルアンビエントからプログレ・メタル、スピードコアまで幅広く聞いてるよ。不思議なんだけど、いろんな意味で“中間”にある音楽を好きになるみたいなんだ。他のジャンルと混ざってるジャンルが好きだし(インダストリアル・メタルとかクロスブリード・ハードコアとか)、結局いつも、それほど有名じゃないアーティストの曲を聞いてるね。つまり、そこそこファンはいるんだけど、ファンとか人気を考慮して曲を作らなきゃならないほど有名でもないってこと。それだと、自分たちのモチベーションだけで作品を作れるからね。音楽の攻撃性とかメロディーについても同じことが言えるよ。
デモシーンの音楽も聴きますか?
賛否両論あると思うけど、僕はデモシーンの音楽はあまり聞かないんだ。デモシーンのミュージシャンにはシーンの外にある音楽を聞かない人が多くて、音楽が似てたり、古いなって感じることもあったりする。あとは、トレンドになった理由とか、その実態は何かってことを理解しないで、今流行ってるものの一番いいところだけを取って自分の作品に入れてる人もいるね。音楽を作る立場にいるなら、シーン以外の音楽を聞いて新しいものを取り入れることが仕事じゃないかと思ってるんだ。だから、関心のある音楽はいつもシーンの外にある。
最近は何をよく聴いていますか?
ジェントの音楽は初期の頃から聞いてるよ。最近はみんな似たような感じになってきてるけど、最初の頃の作品のほとんどは今聞いてもすごくいい。ロウ・ハードスタイルもよく聞くし、今のクロスブリードのアーティストがどんな音楽を作っていくのかも楽しみだね。プログレのブレイクビーツはずっと好きだと思うし、最近は初期のハードロックも聞いてみることにしたんだよ。
いろいろ聞いてるんですね…。さて、では定番の質問にいきましょうか。好きなデモ、心に残るデモ、影響を受けたデモ、、または人生を変えたデモ… あなたにとって特別なデモを教えてください。
これは本当にその日の気分によって違うなぁ。どんな時でも好きだって思うデモはかなりあるけど、デモシーンへの参加年数が増えると、インスピレーションを受けるデモは次々と出てくるからね。好きなデモのリストは長くなっていくばかりだよ。
“心に残るデモ”ってことで言えば、実際のコンポで伝説に残るようなデモを見られたことはすごくラッキーだったと思ってる。歴史的な瞬間を目撃したんだなって思いながらパーティーから帰るのは、いつも最高の気分だからね。
たった1つだけデモを選ぶのは本当に難しいな。選んだとしても、自分の中で同じくらい大切なデモが他にもいろいろあるからね。
分かりました。では、なぜデモを作るのですか?あなたにとってのデモ、デモシーンとは何ですか?
これは大きな質問だね。陳腐な表現を使わずに答えられか疑問だな。
一部の人々にとって、“ものを作る”ってことは、人生で起きたことに折り合いをつける唯一の方法なんだ。僕は、技術がものづくりに無限の可能性を与えてくれた時代に生まれてきたことを幸せに思っているし、与えられたものをできる限り活用するのが自分が果たす義務の1つじゃないかと思ってる。
“オタクと呼ぶには芸術的すぎて、芸術家と呼ぶにはオタクすぎる”タイプの人にとって、デモシーンは、難しいけどやりがいを感じられる素晴らしい現実逃避の場所だよ。ここは僕に知識や可能性を与えてくれただけじゃなくて、友達との出会いをくれた場所なんだ。だから他の人達と同じように、デモシーンには恩義を感じているよ。時々僕らがシーンについてうるさく主張したり、守ったりしようとするのはそのせいもあるだろうね。現実世界から守ってくれるカバーみたいなものさ。
デモシーンで達成したい目標や夢はありますか?将来のデモシーンはどうなることを期待していますか?
まだデモシーンでやってみたいことの50%ぐらいしか達成してないんじゃないかな。プレイリストでランダムに再生されるものじゃなくて、魅力を長い間維持できるような作品を作ってみたいんだ。それに、誰かにとって何らかの意味を持つ音楽やデモを作りたい。それってアーティストが憧れる、最も難しいタスクだと思うんだ。
もっと広い視野で見た場合の目標とか夢っていうのは、僕には全然分からないや。そんなに先のことは考えてないんだ。次に作るデモ、次に参加するパーティー、次に作る音楽に集中するだけだよ。
最後にデモシーナー、デモファンの方にメッセージをお願いします。
退屈な意見に聞こえるかもしれないけど、デモシーンは個人が作る作品次第なんだ。誰かが望めば、シーンを良い方向に変えていくこともできる。デモシーンの未来は、その“誰かの望み”にかかっていると思う。
ありがとうございました。分かると思いますけど、私はあなたの作品の大ファンです。
ファンじゃなくて、ファンがつく人間になりなよ(笑)
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最初は「いくつか」質問を送るって話だったんですが、あれよあれよという間に、、、長い!!これ長すぎるんじゃない??ということになったわけで・・。でも、Gargajさんが嫌がらずにすべての質問に答えてくださったので、ありがたくノーカットで載せてみます。(もちろんだ!) Gargajさん、どうもありがとうございました。
最後までお読みいただきありがとうございました!————————————
そもそも“デモ”ってなに?パソコンの話?と思った方は、まずはこちらのMoleman2のドキュメンタリーをチェック。(この映画の監督、シラードさんのインタビューはこちらでどうぞ。)
#1: 日本のデモシーナー、qさん(nonoil、gorakubuのコーダー)にインタビューは、こちら。
#2: デモシーナー、Gargajさん(Conspiracy、Ümlaüt Design)にインタビューは、こちら。
#3: デモシーナー、Preacherさん(Brainstorm、Traction)にインタビューは、こちら。
#4: デモシーナー、Zavieさん(Ctrl-Alt-Test)にインタビューは、こちら。
#5: デモシーナー、Smashさん(Fairlight)にインタビューは、こちら。
#6: デモシーナー、Gloomさん(Excess、Dead Roman)にインタビューは、こちら。
#7: 日本のデモシーナー、kiokuさん(System K)にインタビューは、こちら。
#8: デモシーナー、kbさん(Farbrausch)にインタビューは、こちら。
#9: デモシーナー、iqさん(RGBA)にインタビューは、こちら。
#10: デモシーナー、Navisさん(Andromeda Software Development)にインタビューは、こちら。
#11: デモシーナー、Pixturさん(Still, LKCC)にインタビューは、こちら。
#12: デモシーナー、Crypticさん(Approximate)にインタビューは、こちら。
#13: 日本のデモシーナー、0x4015(よっしんさん)にインタビューは、こちら。
#14: デモシーナー、Flopine(Cookie Collective)にインタビューは、こちら。
#15:デモシーナー、nobyさん(Epoch、Prismbeings)にインタビューはこちら。
私がデモシーンに興味を持った理由、インタビューを始めた理由は、こちらの記事にまとめてあります。また、デモやデモシーンに関連する投稿はこちらからどうぞ。